第24回アーカイブ研究会 「特集展示「鈴木昭男 音と場の探求」をめぐって」の報告

近年,サウンド・アーティストの活動が注目されるようになっているが,その先駆者とも言うべき鈴木昭男をテーマにしたアーカイブ研究会を行った。和歌山県立近代美術館で開催された特集展示「鈴木昭男 音と場の探究」(2018年8月4日~10月21日)を企画した奥村一郎氏を講師に,鈴木昭男本人も同席しての研究会となった。奥村氏はこれまでにも,2005年に「鈴木昭男:点音(おとだて) in 和歌山 2005」を開催しており,2015年には,その10周年記念イベントを,梅田哲也をゲストに招いて行っている。 奥村氏は,中川眞氏(大阪市立大学特任教授),中川克志氏(横浜国立大学准教授)とともに,鈴木の仕事のアーカイブ化を計画(科学研究費を取得済み)しており,その意味でもタイムリーな企画となった。

鈴木昭男(1941年平壌生まれ)の活動は,1963年,名古屋駅ホームから始まった。ホームの階段からバケツいっぱいのピンポン玉や空き缶をぶちまけて,どんな音がするかを実験。その「階段に物を投げる」を原点として,自然に投げかけ,音をたどる「自修イベント」を開始した。これらは公開するのではなく,もっぱら自分の修行のために行ったため「自修イベント」と呼ばれた。70年代にはアナラポスなどのエコー音器の制作やハウリング・オブジェなど,日常の素材を活かしたサウンド・イベントを展開し,1976年には南画廊で音のオブジェ展を開催した。その後,京都府丹後に移住して居を構え,1988年「日向ぼっこの空間」を実施。これは子午線上に設置した日干しレンガの壁空間に座って,秋分の一日,耳を澄ませて過ごす営みであった。また,1996年夏,ベルリンで開催されたソナムビエンテ・フェスティヴァルではじめて,自然や都市の風景に耳を澄ます「点音(おとだて)」を行った。

こうして「聴く側にまわる」姿勢での活動を60年代から続けている鈴木の足跡を,本人が所蔵する資料を集めてアーカイブ化しようというのが奥村氏らの取り組みである。奥村氏はまず,2018年の8月から11月にかけて和歌山県立近代美術館と田辺市の熊野古道なかへち美術館で開催された展示について紹介。膨大な資料のなかから何を紹介するか,展示資料の選択が悩ましい作業となったという。その上で,鈴木の60年代からの活動を振り返る形で説明していったが,今まであまり知られていない活動や資料が次々と出てくることに驚かされた。これらの記録や資料は丹後の自宅の大きな倉庫に保管されているが,多くの国々に招かれて国際的に活躍する鈴木の活動は広範に渡っており,資料はあまりに膨大すぎてこれまで手がつけられなかったという。

奥村氏のトークには,鈴木氏本人と中川眞氏も加わって,ディスカッションは賑やかに展開した。音にまつわる活動の記録の仕方,資料保管の問題など,サウンド・アートのアーカイブには多くの問題がある。今後,資料の整理が行われ,アーカイブが公開されるのが待たれるところである。

トークの後で会場は大学会館ホールへと移り,円形ホールで鈴木のパフォーマンスが行われた。アナラポスを巧みに操作して繰り出される響きの多彩さには目を見張らされる。しなやかに生み出される弾力のある音は,聴く度に違った味わいを届けてくれる。それは,長年にわたって「聴く側」に自らを置いていた人だからこそ出せる音なのであり,その密かな慎ましやかさこそが,サウンド・アーティスト鈴木昭男の世界である。(柿沼 敏江)


第24回アーカイブ研究会

「特集展示「鈴木昭男 音と場の探究」をめぐって」

講師|奥村一郎(和歌山県立近代美術館学芸員)/鈴木昭男(サウンド・アーティスト)

日時|2018年12月16日(日)14:00-

会場| 京都市立芸術大学芸術資源研究センター,カフェスペース内/大学会館ホール

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