第19回アーカイブ研究会「1960〜70年代に見られる芸術表現の研究拠点形成と資料アーカイブの構築」の報告

第19回アーカイブ研究会は,芸術資源研究センターのプロジェクトの一つ「井上隆雄写真資料に基づいたアーカイブの実践研究」のメンバーが担当した。本プロジェクトは,本学出身で写真家の井上隆雄氏が残した膨大な写真資料を対象として,アーカイブ(資料調査・分類・利活用)の実践を行いつつ,美術・文化史への新たな方法論の構築を目指している。

今回の研究会は,アーカイブに関わる資料研究やその方法論をテーマとし,情報科学芸術大学院大学[IAMAS]講師の伊村靖子氏を迎えて行った。伊村氏は,国立新美術館学芸課美術資料室アソシエイトフェローを経て,2016年よりIAMASに着任している。今回は主に,芸術表現の多様化と資料アーカイブズの可能性,近年の資料研究の動向についてお話し頂いた。

まず伊村氏は,ご自身が関わった展覧会「コレクションを中心とした小企画:美術と印刷物―― 1960-70 年代を中心に」展(東京国立近代美術館, 2014 年6 月7 日~11 月3 日)を紹介した。高松次郎やハイレッド・センターの前衛的な活動における,発表の場の拡大と当時急速に発展しつつあるマス・メディアとの関連について述べた。新聞や雑誌というマス・メディアを意図的に活用し,その誌面を一つの発表の場とするような取り組みがあることを受けて,現代美術研究における資料研究あるいはメディア論的視点の重要性を指摘した。

この論点からさらに注目すべき活動として,伊村氏は1969年~70年代に試みられた「精神生理学研究所」を取り上げた。「精神生理学研究所」は,複数のアーティストによる郵便を用いた表現活動であり,当時出回りつつあったコピー機も活用している取り組みである。伊村氏はこの取り組みを通して,作品としての資料,原本と複製との逆説的関係性,郵便というメディアの活用という,美術史あるいは作品研究において考えなくてはならない要点について述べた。

最後に,伊村氏が2011年に京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAで実施した展覧会「共創のかたち~デジタルファブリケーション時代の創造力」展と,2017年12月19日から24日にかけて開催された「岐阜おおがきビエンナーレ2017 新しい時代 メディア・アート研究事始め」(情報科学芸術大学院大学[IAMAS])の取り組みについて述べた。ここでは,FabLab(ファブラボ)のように,不特定多数の人が自由に工作機械を使用できるスペースや誰もが利用できるオープン・ソースを例に挙げ,オリジナルと複製をめぐる唯一性やアーティスト像の変容が,このようなデジタル技術の発展によって,今日的な課題となっていることについて触れた。

質疑応答では,今回取り上げられたような1970年代以降に見られる作品の多様化やメディア論の視点による作品研究の意義を踏まえて,美術館における収蔵のあり方やその範囲について議論された。実際に美術館に勤めている聴講者から,学芸員もそのような時代意識を共有しつつあること,一方で制度設計や予算の問題があることについての指摘があった。また,記録や資料そして「作品」概念それぞれの接近を受けて,作品そのものの定義をどうするのかという問題についても意見が出た。資料研究において,情報発信の手法をどのように構築するのかについての質問もあったことで,芸術資源研究センターやIAMASが取り組んでいるオープン・ソース「AtoM」が例として取り上げられ,アーキビストではない研究者が行うアーカイブの恣意性とその意義や問題について議論が交わされた。

このように本研究会では,「精神生理学研究所」をはじめ,1970年代の「作品」概念の変容やマス・メディアとの関わりという具体的な例が提示されたことで,美術史研究における資料研究の意義やその必要性が示されたことは意義深い。そして,その資料研究を展開させる手段としてのアーカイブ的手法について意見交換を行うことができた。その実践における研究者の恣意性と客観性とをどのように調和・敷衍していくのかが議論されたように,この方法論の構築が本センターにも関わる今後の要点となるだろう。

(京都市立芸術大学美術学部非常勤講師 山下 晃平)

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