「MAMリサーチ006:クロニクル京都1990s―ダイアモンズ・アー・フォーエバー,アートスケープ,そして私は誰かと踊る」の報告

 

森美術館では,アジア各国と日本各地のアーカイブ,研究機関,研究者との協働を前提とし,作品に限らない映像,写真,文書,史料などを紹介する企画展示「MAMリサーチ」が2015年から企画されている。1990年代の京都のアートシーンを扱いたいという提案が椿玲子氏(森美術館キュレーター)から芸術資源研究センターに寄せられ,1990年代の資料調査に着手していた石谷治寛(芸術資源研究センター非常勤研究員)が共同企画者となり,調査中の資料を活用した小企画が実現した。「MAMリサーチ006:クロニクル京都1990s―ダイアモンズ・アー・フォーエバー,アートスケープ,そして私は誰かと踊る」と題されたこの小企画展は,1989年に大阪ではじまり,1991年から京都のCLUB METROで30年近く続いているドラァグクイーン・パーティー「ダイアモンズ・アー・フォーエバー」や,アーティスト,ギャラリスト,演劇プロデューサーが協同で一軒屋を借りてシェアオフィスとして活用した「アートスケープ」の資料を整理し直し,アーティスト集団ダムタイプのまわりで展開していた,クラブイベントやアーティストが参加したHIV/エイズにまつわる取り組みについて,総体的に明らかにするものになった。展示期間中には,2度のトークセッションも行い,関連イベントとして豪華なドラァグクイーン・パーティーも実現し,充実したものとなった。ここでは経緯,展示の特徴,関連イベントをまとめておきたい。 (さらに…)

Akira Otsubo 「Shadow in the House」の報告

京都市立芸術大学芸術資源研究センター企画展

Akira Otsubo 「Shadow in the House」

芸術資源研究センターは,学内の小ギャラリーを会場に,写真家・大坪晶の個展「Shadow in the House」を2018年3月22日から31日にかけて開催した。大坪の写真作品《Shadow in the House》シリーズは,時代の変遷とともに所有者が入れ替わり,多層的な記憶を持つ家の室内空間を被写体としている。大坪は近年,日本各地に現存する「接収住宅」(第二次世界大戦後のGHQによる占領期に,高級将校とその家族の住居として使用するため,強制的に接収された個人邸宅)を対象とし,精力的なリサーチと撮影を続けている。接収された住宅数は,時期により変動はあるが,全国主要都市で2600~3000戸にのぼる。その多くは,GHQの指示に従い,内装の補修や壁の塗装,配管や暖房設備,ジープを駐車する車庫の新設など,様々な改修がなされた。撮影にあたっては,建築史や都市史研究者から提供を受けた論文や資料を参照するとともに,「接収住宅」の所有者の遺族や管理者へインタビューを行い,聞き取った印象的なエピソードが撮影場所の選定に活かされている。また,本展企画者の高嶋慈は,批評テクストの執筆や資料のリサーチに協力している。 (さらに…)

現代美術の保存修復/再制作の事例研究 ―國府理《水中エンジン》再制作プロジェクトのアーカイブ化 シンポジウム「過去の現在の未来2」関連展示 の報告

   

 

國府理(1970~2014,京都市立芸術大学 美術研究科 彫刻専攻修了)は,自作した空想の乗り物やクルマを素材に用いた立体作品などを通して,自然とテクノロジー,生態系とエネルギーの循環といった問題を提起してきた美術作家である。國府は2014年,国際芸術センター青森での個展「相対温室」の作品調整中に急逝した。2012年に京都のアートスペース虹で発表された《水中エンジン》は,國府自身が愛用していた軽トラックのエンジンを水槽に沈め,水中で稼働させる作品である。エンジンから放出された排熱は揺らめく水の対流と泡を発生させ,幾本ものホースや電気コードを接続されて振動音とともに蠢くエンジンは,培養液の中で管理される人造の臓器のようにも見える。本来,自動車のエンジンは水中での使用を想定した設計ではないため,部品の劣化や漏電,浸水などのトラブルに見舞われた國府は,展示期間中,メンテナンスを施しながら稼働を試み続けた。発表の前年に起きた福島第一原発事故への批評的応答でもあるこの作品は,機能不全に陥ったテクノロジー批判を可視化したものだと言える。 (さらに…)

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