うつしから読み取る技術的アーカイブ

プロジェクト・リーダー:彬子女王殿下(客員教授・特別招聘研究員)
川嶋 渉(美術学部准教授)

 法隆寺金堂壁画の模写は,国家的規模の事業として,1940年から焼損に至る1949年まで,およそ10年に渡って行なわれた。壁画焼損を契機に,文化財保護法が制定されるなど,その後の文化財に対する意識やその保護について,大きな影響を与えている。また,この模写事業には,写真やコロタイプ印刷が使われただけでなく,日本で初めて昼光色蛍光灯が用いられるなど,近代テクノロジーを取り入れて様々な試みがなされた。模写制作は,東京から3班,京都から1班という4班編成のもと,各班がそれぞれ壁面を担当する形で行なわれており,本学からは,京都班として入江波光が,林司馬・吉田友一らとともに模写にあたっている。
本事業の目的は,二つある。一つめは,法隆寺金堂壁画の模写事業における,京都班にまつわる記憶を整理しアーカイブ化することである。今年度は,模写事業に関する書籍や手紙や写真などを収集した。例えば,個人宅で保存されていた京都班林司馬と東京班安田靫彦の間で交わされた手紙や,当時の制作風景を撮影した写真などである。これらの資料は当時の事業の様子を生々しく伝える一方で,劣化がみられたり,現在では入手困難なものが多い。そのため,資料のデジタル・データ化を進めている。今後の計画としては,模写事業関係者から話を聞き,オーラル・ヒストリーとしてアーカイブ化することや,写真家・入江泰吉が当時の様子を撮影している可能性があることから,入江泰吉記念奈良市写真美術館を訪ねて調査することなどを検討している。
二つめの目的は,芸術大学の特性を活かして,人が手で写す「模写」と機材を用いて写す「複写」から,「写し」を考えることである。模写と複写の具体例である,本学芸術資料館が所蔵する模写作品とコロタイプ印刷および記録写真を扱うことで,模写事業の新たな側面が見えてくるように思われる。現在でも,日本画専攻研究室1(古画研究室)では,模写制作が行なわれている。本学における模写教育の礎を築いた入江波光率いる京都班が,「写し」の絵画をどのように捉えていたのかということは,本学に受け継がれている模写の由来を紐解くことにもつながるだろう。
今年度は,複写であるコロタイプ印刷について,便利堂を訪れて製作工程を視察した。その他に,基礎研究の範囲ではあるが,本学芸術資料館が所蔵している入江波光・林司馬ほか門下の画家の模写作品を選定し,立命館大学アート・リサーチセンターの協力でデジタル・アーカイブ化する計画が進んでいる。これまで模写は,粉本の延長線上にある模本類として扱われていたため閲覧の機会に乏しかったが,今後これらの模写作品が芸術資源として,本事業をより活性化するものと期待される。

林司馬による6号壁部分模写 模写制作者の手紙便利堂のコロタイプ印刷

・林司馬による6号壁部分模写
・模写制作者の手紙
・便利堂のコロタイプ印刷

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