森村泰昌アーカイブ

プロジェクトリーダー:加須屋明子(美術学部准教授)

 名画の中の人物や著名人に扮する作品で知られる,本学出身の現代芸術家・森村泰昌に関する文献資料のデータベースの構築・活用方法を検討し,各資料が書かれた当時の文化的背景を考察することが目的である。日本の現代美術を代表する一人として,国際的に活躍を続ける美術作家,森村泰昌関連のO氏所蔵文献資料の現物にあたることによって,周囲の記事や当時の文化的背景などについても合わせて検討を進め,考察してきた。
O氏の資料収集の方法には特徴があり,森村に関する記事の掲載箇所のみを切り抜くのではなく,資料の本体をまるごと保管するという方針に基づいている。その時同時に掲載されていた他の記事内容や,デザインなどからも時代背景を知ることができ,関連記事だけではわからない様々な情報を読み取ることが可能になる。また,後に編集される図録や作品集などにはほとんど出てこないような作品についても,同時代の記事にはしきりに取り上げられている場合も多く,森村研究にとって貴重な資料体である。
現在,森村泰昌に関するO氏所蔵の文献資料のうち,1980年代から2000年までの雑誌,展覧会図録,パンフレット,新聞記事など(自筆,対談,インタヴュー,他筆含む)約3000件について,整理を進めている。作品タイトルや展覧会名でも関連記事が検索できるようにと電子化を進め,将来的には研究者向けのデジタル・アーカイブを構築することを目指す。前期はテーマ演習として大学の授業の中に組み込み,毎週木曜日の午後に集まって,本年度は主に1999年から2000年までのファイルに入った新聞やチラシ類のデータをシートにまとめてきた。また,それと並行してこうした文献資料アーカイブをどのように活用しているかの実例を見学したり意見交換をするために,美術館やギャラリーを訪ね,討論を重ねた。6月25日に行なった国立国際美術館「高松次郎 制作の軌跡」展の見学会では,文献資料や作品にまつわる作家のメモ類などの諸資料が,展示において重要な役割を果たしていることを実地に学んだ。また,アーカイブを活用した作品の事例や,アーカイブの意味についても議論を重ねて取り組んだ。9月19日に京都芸術センターで開催されたシンポジウム「ほんまのところはどうなん,『アーカイブ』 初心者にもわかるアーカイブ論」での「アーカイブを芸術にする人が増えてきた」では,こうした議論もふまえながら発表を行った。後期は蓄積された文字データの修正と追加入力を行ない,また森村関連資料の活用については,資料の特徴と意義についてテーマ演習にて取り組んだほか,芸術学修士課程の特殊演習でも主題として取り上げ,文献資料を活用しながら,どのように森村を巡る言説が生み出されていったのかを研究した(※)。次年度も引き続き,デジタル・アーカイブの構築に努めるとともに,その一部の公開や活用について検討し,研究経過の報告会なども視野に入れながら進めてゆきたい。

※田川莉那により,修士論文「森村泰昌の歴史的位置と『美術』への問題意識の変遷―『ブロマイド』としての在り方を巡って」が提出された。森村泰昌の作品について,先行研究をふまえながら,新たな解釈の可能性を探り,それを美術史のみならず写真史上にも位置づけようと試みる意欲的な論文であり,この作成にあたっては森村関連資料の詳細な検討が欠かすことができない要素として活用されている。本論文では従来定説となっていた,「男性もしくはアジア人としての身体を駆使しながら,自他,男女,東西というような二項対立の内どちらかを賞揚,糾弾することなく看破し,脱構築をはかる作家」という位置づけに加え,彼の作品のブロマイド性に着目し,「生々しさ」を担保するという視点より,森村作品の全体像を再解釈し得た。

平成26年度

mori3-2森村泰昌に関する文献資料

mori9-2-2

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