総合基礎実技アーカイブ

プロジェクトリーダー:井上明彦(美術学部教授)

 本学美術学部は,専攻別の入試と実技教育を行なう一般の美術系大学と異なり,美術科・デザイン科・工芸科の統一入試や,全専攻横断型のカリキュラムなど,特異といえる教育体制をとっている。その代表的なものが新入生全員が1年次前期の半年間にわたって履修する「総合基礎実技」である。総合基礎実技は,専攻の撤廃と研究テーマによる工房制の実現を唱えた1970年の大学改革案の翌年,「共通ガイダンス」の名称で生まれ,1980年の東山から沓掛への移転後に現在の名称となった。さまざまな教育環境の変化にもかかわらず,45年にわたって共通基礎教育のカリキュラムが存続してきたことは,この国では異例のことといえる。それは創作活動の広い裾野としての「基礎」を重視する本学部の芸術教育思想の独自性を表わしている。
本アーカイブは,過去から現在に至る総合基礎実技の課題とその成果,受講生と指導体制を資料化し,課題の意義・関連性・可能性を明らかにすること,それを通じて創造的な研究教育をさらに充実させていくためのたしかな礎を構築することをめざしている。
2014年度から始めた総合基礎実技のアーカイブ化作業は,2年目を迎え,1975年度まで進んだ。作業は,総合基礎実技の授業のない後期の10月から2月初めまでの4ヶ月間,原則として毎週水曜日午後,2015年度総合基礎非常勤講師の佃七緒と長谷川由貴の二人によって行なわれた。現物資料をもとに,各カリキュラムと作品記録および関連資料を年代順にスキャンし,テキストのデジタル化を進めていくのだが,印刷物の劣化,写真やスライドの退色の進行とともに,研究室の陣容が一定でないため,年度毎に記録方法やまとめ方に異同があり,また記録機器・媒体が時代とともに変化していくので,デジタル化の作業は単純ではない。今後,アーカイブ化の対象が70年代・80年代と進むにつれて,記録資料の変化や複合性そのものが増大していくことが予想される。現在使用している機器はパソコン2台とA3スキャナー一台だけだが,すべて人件費という予算の制約上,週半日2名という体制が動かせないため,芸術資源研究センターからA3スキャナーをお借りして作業を進めた。今後も記録媒体に対応する機器の充実が望まれる。
基本的に年度毎にまとめているが,今年度は,年度をまたいで受講者の名簿をまとめ,氏名の方からアクセスしやすくすることを試みた。またテキストベースでデジタル化していた課題を,より見やすくするため,エクセルの表形式にまとめることも試みた。加えて新しい試みとして,2015年度から順次さかのぼって,課題のみをまとめていく「総合基礎課題一覧」の作成をはじめた。現時点で,1998年度から2015年度までの課題タイトル,期間,内容,材料,参加教員,研修旅行先をエクセルデータにまとめた。また2010–15年度の総合基礎の統一テーマと運営委員の一覧もまとめた。これは近年の総合基礎カリキュラムの概要把握を容易にするもので,次年度の総合基礎運営委員会の参考資料としてすぐに役立つものとなった。運営委員が2年ごとに交代するので,数年にわたる課題の変化が客観的につかみにくい不備も補う。これまでこうしたまとめの資料さえなかったのである。
つまりアーカイブ化の作業は,全体がまとまってからではなく,それを進めていく過程でも,さまざまなフィードバックがありうるのである。過去から時系列で資料化していくことは今後とも継続していくべき地味な基礎的作業だが,適宜このように時系列を越えてカテゴリーに応じた資料化をはかることは,作業のモチベーションを高めるだけでなく,アーカイブ化に新しい視点と機能をもたらすと思われる。

平成26年度

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  • 1. 1971年度共通ガイダンス案より
  • 2. 1971ガイダンス課題「機能、材質、形体」授業風景
  • 3. アーカイブ化の作業過程一例

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