映像アーカイブの実践研究

プロジェクト・リーダー:林田 新(非常勤研究員)

 京都市立芸術大学は,2023年を目処にJR京都駅の東側,かつて日本最大規模の同和地区であった崇仁地区に移転することが予定されている。その崇仁地区に建つ柳原銀行資料館は,かつて同和地区内に認可,設立された唯一の銀行であった柳原銀行(1907年頃竣工)を移築,復元した建物で,1997年に地域の歴史,文化,生活資料を展示する施設として開所した。この資料館が管理する資料群の中には,崇仁地区に関する映像記録が少なからず含まれている。その中には,歴史的に重要な人物や建築物が写っているものなど,史料的価値の高い写真も含まれているものの,個人が寄贈した何気ない私的な写真も少なくない。こうした,市井の人々の日常が写した私的な写真は,歴史的価値が判然としないがゆえに,整理・検討されることなく死蔵されているのが現状である。
 本研究の目的は,こうした映像記録を対象に,アーカイブ的な実践において写真などの映像メディアが果たす役割や可能性について実践的な立場から研究にとりくみ,ワークショップや展覧会などで考察を深めていくことにある。
 写真は,かつてあった現実を記録した資料として扱われる。しかし,その一方で,見る人の知識や経験に応じて,見られるたび,語られるたびに様々なかたちで現在時において過去を活性化させもする。映像記録は,その映像が撮影された当時のコンテクストを知るための資料であるだけではなく,現在時のコンテクストに置かれることで新たな価値を生み出す資源ともなるのでもある。こうした着想に基づき,今年度は,「Suujin Memory Bank Project #00 ワークショップ 声なき声 写真の細部・歴史の細部」を開催した。このワークショップは,写真研究を専門とする林田新,研究協力者の髙橋耕平(美術家)に加え,崇仁地区の歴史に造詣の深い山内政夫氏(柳原銀行記念資料館事務局長),全国で地域映像アーカイブに取り組まれている水島久光氏(東海大学文学部教授)を登壇者に迎え,ご来場くださった方々とともに資料館が所有する写真の観賞会を行なうといったものである。写真研究,歴史学,メディア論を専門とする研究者やアーティスト,崇仁地区に馴染みのある人,ない人が同じ写真を共有し,語り合う時間は非常に濃密なものであった。ワークショップを通じて,写真に潜在する微細な痕跡が観賞者の経験や知識に紐付けられることで有意なるものとして立ち現われ,そこに写る人々や撮影者の生きた歴史が賦活されていく。それは戦前から戦後へといった時代区分や,日本史といったナショナルな歴史観では決して捉えることのできない歴史である。
 また,本プロジェクトでは,ギャラリー@KCUAで開催された展覧会「岡崎和郎/大西伸明 Born Twice」に,岡崎,大西,両氏に行なったオーラル・ヒストリーの様子を記録した映像と,そこから抜き出した言葉を二人の作品の傍らに展示した。そうすることで,新たな解釈を生み出す「資源としての芸術」という視点から出展作品を捉えることを試みた。

映像アーカイブの実践研究1 映像アーカイブの実践研究2
・ワークショップ「声なき声」の様子

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