音響

古典的な楽器を演奏する音楽とは異なるやり方で,新しいスタイルの音楽を創造する試みは,イタリア未来派のルイジ・ルッソロの騒音音楽をはじめとして,蓄音機や録音技術の発展とともに試みられてきた。現代音楽や実験音楽の世界では,録音された素材のテープを編集して切り貼りして創りだすミュージック・コンクレート,電子楽器やアンプで音を増幅させ古典的な楽譜に記述される音階とは異なる音響を発生させる電子音楽,構築された素材と形態を動かすことで独特の音色を奏でる音響彫刻,生体の電気信号を音響化するバイオフィードバックなどの試みが行われ,フルクサスをはじめとして,美術家と音楽家やパフォーマーとの共同作業を通してさまざまなイベントが行われてきた。

現代音楽だけでなく,音にあわせてアニメーションを動かす音楽映画,1960年代以降のポップ・ミュージックの流通やロックコンサートの舞台パフォーマンスの広がり,新しいテクノロジーを用いた楽器を使うインダストリアル・ミュージックの発展,ダンスやクラブカルチャーとも並行するMTVVJや照明設備の展開などにあわせて,音を題材にした美術作品も多様な文化に関連づけられる。

2000年には,ロンドンのヘイワード・ギャラリーで音楽と現代美術に焦点をあてた一連の展覧会「ソニック・ブーム」が,作曲家・音楽学者デヴィッド・トゥープによって企画された。ポンピドゥー・センターでもこの展覧会が紹介され,サウンド・インスタレーションだけでなく,美術家が関わったレコードのジャケットの展示にあわせてデジタルなジュークボックスで音楽を選択し,展示室でヘッドフォンで音楽を聞くことがきるなどの工夫がなされていた。ロックやパンクなど音楽文化と視覚芸術の深い関わりを再考する展覧会は近年数を増してきている。

多くの場合,音響作品は,レコードやCDやコンピュータなどで音楽情報が再生され,アンプを通して増幅され,スピーカーやヘッドフォンを通して試聴できる。最近はワイヤレスのヘッドフォンが使われたり,スマートフォンのようなデバイスを使って位置情報に基いて音響を聞かせる場合もある。ラジオカセットなど音楽の再生装置とスピーカーとが一体となった機器の固有の特性に着目した作品も存在する。またマイクを入力装置として,ライブで環境音を拾ったり,音声を変形させて聞かせる場合もある。

サウンド・インスタレーションにおいては,たいてい二つ以上のスピーカーが空間上に配置されることによって,独特の音響空間が構築される。音響は建築物の構造によっても異なるし,同じ展示室での別の音を発する作品との干渉なども考慮に入れる必要があり,サウンド・エンジニアの助力が望ましい。展示によっては他の作品の音が別の作品に響くことで,作品に新しい文脈や意味が付与される効果が狙われている場合もある。音響的要素は,環境に左右され,スピーカーの種類やボリュームや配置に厳格な注意を払うべき作品が多い。

ページトップへ戻る