サウンド・インスタレーション

1960年代のフィルム・ベースド・アートにおいても,映像に新しい電子楽器やシンセサイザーを用いた音楽が加えられるようになったが,サウンドトラックが光学式で再生される機材の特徴を使って,手書きの図形を用いて音を奏でるバリー・スピネロBarry Spinello《サウンドトラック》(1970)の試みなどがあった。

藤本由紀夫は1970年代から,電子音楽を用いたイベントや演奏を行ったが,1980年代から音響を用いたインスタレーションを数多く手がけている。またレコードとターンテーブルを使って音響コラージュを演奏していたクリスチャン・マークレーは,複数のレコードを分割して1枚に貼り合わせ作品《Mosaic》(1987)を制作して以来,音や音楽や付随する映像に関わるインスタレーションを手がけて国際的に評価されるようになった。日本では同様にレコードを使ってコラージュやノイズ音楽を演奏していた大友良英が追従し,サウンド・インスタレーションを手がけている。1990年代から池田亮司やカールステン・ニコライはパルス派やサイン波などコンピュータで創造される音響を使った音楽CDを制作し,コンピュータを使って演奏するデスクトップDJとしても活動するとともに,異なる位置のスピーカーから発せられる音の波が干渉するなど,人工的に生成された音波の物理的な特性に注目するサウンド・インスタレーションを行っている。ジャネット・カーディフとジョージ・ビュレス・ミラーは音楽の時間的・空間的展開をスピーカーの配置や時間的変化によって構成した多様なサウンド・インスタレーションの試みを行っている。《40声のモテット》(2001)では,40声から成る声楽曲を,個々の声を分割して録音し,展示上に配置した40台のスピーカーを通して聞かせるサウンド・インスタレーションになっており,同じ種類のスピーカーの同期と空間的配置が鍵となる作品である。アンリ・サラは固有の場所で撮影された映像や音響を,ホワイトキューブの空間に転置させて視聴覚体験を再構築することで,鑑賞者を音と空間に関する歴史的・社会的意識へと促す。ダンス・ミュージックやライトの点灯の効果を用いて音楽文化を批判的に検証するハッサン・カーンや,日常的なオブジェをキネティック・アートのように組み合わせて微細なノイズ音を奏でる毛利悠子,既製の芸術作品,太陽光パネル,蟻の巣,きのこなどさまざまな素材から偶然生み出された電流のパターンを用いてLEDの明滅とノイズ音を増幅させるインスタレーションを行うハルーン・ミルザなど,サウンド・インスタレーションの狙いや方法は多様であり,照明の明滅などキネティック・アートや映像との同期など他のマルチメディア・インスタレーションと重なる要素が用いられることも多い。

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