シングルチャンネル・ヴィデオ

「シングルチャンネル」という言葉は,ひとつの電子情報を,ひとつの再生機を通して,ひとつのディスプレイ装置(プロジェクターやモニターなど)で上映することを意味する。
シングルチャンネル・ヴィデオのアートは,1960年代における初期のアナログ・ヴィデオの実験から,新たなデジタル・ヴィデオ作品にまでおよぶ。さまざまなシングルチャンネル・ヴィデオにおいて,同時代のテクノロジーを用いた多様な展示の試みや挑戦がなされてきた。それらは,ギャラリー,美術館,映画館,教室,テレビ,ウェブ上の展示から,携帯電話やアイパッドのようなモバイルデバイスまで,幅広い場所で鑑賞される。展示デザインは,モニタ,液晶スクリーン,大画面のプロジェクションから,視聴者がインタラクティブに触れ合うことのできる新しく発明されたデバイスにまで広がる。

電子情報は,Video(U-matic,VHS,ベータカム SP),デジタルメディア(DVD,デジタルベータ,DVDCAM),ハードディスクなど様々なメディアに保存される。展示には,適切な再生機(DVD)やディスプレイ・デバイス(モニタ,プラズマ,液晶ディスプレイ,プロジェクターや映写用スクリーンなど),音響機器(アンプ,スピーカー,ヘッドフォン),ケーブルやコネクターなどが必要となる。VHSは,画質が荒く,繰り返し再生すると劣化が激しいため,上映には向かない。電子情報は複製され,上映の目的に即したフォーマットに変換されて,複数のコピーが生じることになる。保存用フォーマットをマスターと呼び,展示やアクセス(プレビュー)・フォーマットなど異なる電子情報が複製されて保管される。フィルムを用いた作品に修復を加えてデジタル化したフォーマットは,一般的にデジタル・リマスターと呼ばれる。またアクセス用フォーマットの映像を作家自身がYouTubeVimeoといった動画サイトにアップロードすることも増えている。

単一の電子情報からなるとはいっても展示や上演の方法はさまざまであり,展示手段の選択が展示者に委ねられる場合から,美術家によってディスプレイ装置のメーカーが厳密に指定される場合まで多様なケースがある。展示者にとっては,展示場所や入手可能な機材や予算によって制約を受ける。多くの場合,作家は要件(requirements)やインストールマニュアルなどの仕様書を作成するが,展示者はそれらを読解して作家の意図や作品の文脈を理解することが重要である。作品の購入のさいには,上記の要項を十分に確認しておくべきである。

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