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指揮者 佐渡裕さんによる特別授業&インタビュー2014.10.23

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 10月7日(火),音楽学部・音楽研究科では,本学出身であり,国内外で活躍されている指揮者 佐渡裕さんをお招きし,学生約80人を対象に,オーケストラの特別授業を行いました。

 曲目は,A.ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」で,佐渡さんは学生に対して,「戦いの中で旗を振りまわしている情景を思い浮かべて」,「真っ赤に染まった空が見えるように」と曲のイメージを伝えながら,技術的な指導を行いました。

 コンサートマスターを務めた弦楽専攻4回生の堀江恵太さんは,「新世界は,2~3箇月かけて練習してきたが,佐渡さんから指導していただいた2時間で,それまで気付かなかった多くのことに気付くことができた。指揮者によって,曲の解釈は異なるが,佐渡さんは,1,4楽章を駆け抜ける感じで,弾いていて気持ちが良かった」と話し,濃密な時間に手ごたえを感じているようでした。

 

 

佐渡裕さんインタビュー

指揮者 佐渡裕さん × コンサートマスター 堀江恵太さん(弦楽専攻4回生)

 

― 楽譜を最初に見るとき,何を考えてその曲に向かわれていますか。

佐渡 それはもう本当にゆっくり譜面をひとつひとつ読んでいく。それの繰り返しなので,新しい曲と出会う感覚は,みんなと何にも変わらないと思う。僕は小さい頃から,オーケストラのスコアにすごく憧れていて,お小遣いを貯めては,スコアを買って,レコードを聴きながら,一つ一つのラインを追いかけていったり,ピアノで弾いて,弦楽器だけで鳴ったらこういう音がするだとか,ホルンが違う調で書いてあるとか,そういうことを,ある種の趣味みたいにして遊んでいた。最初は,ファーストヴァイオリンばっかり見ている,それが,セカンドヴァイオリンも一緒に見てみようか,ヴィオラは違うし,難しいことが書いてあって,それがいろんな色付けをしていくんだとか,ベースが大事なことをやっているとか,そういうことが子どもなりにわかってくるわけ。その後,京都市少年合唱団で5年間経験したり,吹奏楽でフルートを経験したり,あるいは堀川音楽高校,京都芸大と音楽の専門の道に進んで,指揮の専門のことは勉強しなかったけど,子どもの頃からずっとやっていたことは,指揮をすることに全て準備されていたみたいに繋がっていった気がする。

 子どもの頃から親しんでいる曲というのは,身体に入っているけど,この年齢になっても初めての曲っていうのはいっぱいあるわけよ。知らない曲じゃないけど,やったことがない曲は毎月のように出会っていく。誰かのマネをすることももうなくなったし,譜面を読んでいく以外ないかな。時間がかかってでもコツコツと頭の中で音を重ねて行ったり,あるいはピアノを叩いたり。

 みんなもそういう経験があると思うけど,例えば,演奏した回数が増えていくことで,突然,すごい解放感を感じたり,緊張感を感じたり,音符に何か書いてあるわけではないのに,音符自体が持っている物語が見えてきて,具体的にドレミファソラシド以外の何か,温度だったり,においだったり,そうしたものに代わっていく時に,初めて自分の中に修得された感覚があるよね。頭の中で音自体は読めていても,自分の中でこれだと感じるのは,繰り返していくうちに身に付くものだったりするのかもしれへんね。

 

― 僕はずっとスーパーキッズオーケストラ(※)でお世話になっていて,佐渡さんが「スーパーキッズが世界で一番好きなオーケストラだ」って言ってくれていたのが,僕はすごく嬉しかったんです。だけど,大人になっていくうちにその訳というのをいろいろ考えるようになりました。佐渡さんが,音楽家として大事なものをキッズに感じたり,僕らが大人になるにしたがって失っていってしまうものを感じているんじゃないかなと。スーパーキッズを愛する訳,子どもと音楽をする訳はどういったものでしょうか。

佐渡 僕はスーパーキッズのメンバーにいろんな与えたいものがある。一つはオーディション,チャンスを自分で掴むこと。「落ちる」という事もすごく意味があることと僕は思っている。人生に自動扉はないし,自分でその扉をあけなきゃいけない。日本では,できることなら自分の息子,娘には「落ちる」という経験はさせたくないと考える人は多いかもしれない。でも音楽をやっていく以上誰かと比べられるし,音楽以外の世界でもそうだけど,僕自身は,そういうものに挑戦して,選ばれて,自分の道が開ける,自分の行きたいところが見えてくるということの方が健全な気がする。僕自身はそういう道を選びたいと思う。だから,平等に音楽好きな子も嫌いな子も普通に授業をするし,そういうことをいっぱいしたうえで,オーディションをして,ヴァイオリンを弾くことに優秀な子どもたちを集めてオーケストラを作るっていうのをやった。

 決して音楽家になっていく子供を育てたいわけではないけども,何を作りたかったかというと,ここに選ばれて集まってきた子供たちが,一生忘れることがないある種の感覚を経験してほしい,一生忘れない夏休みを共につくりたいなと思ってん。僕自身もそうだったんだけど,小学校高学年くらいから高校生くらいまで,大人になっていくうえで重要な時やねん。人生とはこうあってほしい,友達とはこうあってほしい,人と人とはこういう関係であってほしい,そうしたものを強く持っているからこそ,汚い部分が見えたりする。そういう時に,このスーパーキッズで,音を一緒に努力して鳴らす,全力で向かう経験をしてほしい。

 音楽というのは,全てのことが,肯定的に思えることだと思う。現実の世界は,戦争はあるし,喧嘩はあるし,いがみ合いがある。でも,音の世界は,違うことを考えている者同士が,一つの音を作っていくことが可能やろ。スーパーキッズで,みんなが全力で向かって行ける,あの音の素晴らしさは,恵太が言うように確かに,大学生になってくるとできないものかもしれないけど,そのことが自分達にできた,自分達がそういう体験をしたというのを持っている人間は強いよね。どこの場にいっても。

 

― それを失いたくないと思って,僕は大学4年生まできています。頭の中に,いつも,スーパーキッズがあり,佐渡さんがわーってやっている絵があります。僕は,全力で音楽をするということを教わったとまわりにも言っていて,本当に僕にとってそういう存在でした。佐渡さんの思惑どおりです。(笑)

佐渡 ハハハ。あとは,やっぱり子供達と一緒に時間を過ごしていると鏡になるよね。僕はスーパーキッズメンバーを見ながら,自分の姿を映し出している気がするし,スーパーキッズのメンバーも俺の顔を見ながら,自分の姿を見ている気がする。

 嘘をついてたら,嘘の音しかしないし,こっち側も気合が入ってきたら,そういう音が返ってくるし,夢がなかったら,子供に夢を持てとも言えない。常にお互いを映し出している。

 それが子どもたちと向き合っているということなんかなと思う。それも僕自身がスーパーキッズから学んだこと。

 

― 最後に,京芸生,音楽をがんばろうと思っている人にメッセージをお願いします。

佐渡 僕の母校だし,10代から20代に入る時を京都芸大で過ごしたことをすごく誇らしく思っています。すごく自由な勉強の場があったし,あの先生の数,対応してもらっている人数とか,こんな贅沢な空間はないと思うし,本当に優秀な先生方がまわりにいてくださった。大学時代に京都芸大で素晴らしい仲間に出会えたし,本当に自由で,なかなか言葉にできないもどかしさはあったけど,でも,音楽で飯を食っていくという腹は決めていたし,本当に,良い先生,良い仲間に出会えたというのかな,僕はその後,小澤征爾さんやレナードバーンスタインに出会って,また全然違う中に入っていくんやけど,京都芸大で過ごしたことがなかったら,そういう次のステップもなかったと思う。

 今僕は,一年のうち半分は海外で過ごしているけど,できたら年に1回は来ようと思っています。僕が来てみんなが喜んでくれるのであれば,後輩の顔を見に,先生と生徒の関係でもね,偉い指揮者と学生の関係でもなくてね,先輩,後輩としてみんなと話ができたらなぁと思っています。

※ スーパーキッズ・オーケストラは,兵庫県立芸術文化センターの事業として,音楽が大好きな小学生から高校生までの弦楽器によるオーケストラ。芸術監督を佐渡裕さんが務めている。