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卒業生インタビュー[art_16]山本容子さん 4/4

4. 変化をおそれずに

interviewer版画には,キャンバスに向かって直に描くだけでなくて,仕上がりを何かに委ねるという側面もあり,その点が魅力だと思います。

山本 版画に取り組む理由の一つに間接技法ならではの面白さというものがあると思います。銅版は人の力で版を彫る直接法もありますが,私の場合は製版をするのに腐蝕法という硝酸の力を借りて線を彫っています。これが間接法ということになります。当然材質の特徴を生かす技術が必要になります。よく,技術は関係ないと言われることもありますが,それは技術に囚われないようにという意味であって,決して技術が不要という事ではありません。銅版画家は職人,アーティストの側面が半々であり,その二つのコンビネーションがきちっとしていないと表現にはなりません。だから作家性も大切ですが,技術も洗練させていく必要があります。

 私も学生時代は一枚の版画を刷るのに相当の時間を要したけれど,今は手も汚れないし,短時間で銅版を刷ることができます。これは,山本容子という作家が年齢を重ねる中で職人としての技術が向上したということです。

 では,感性はどうか。こちらは大学に入学した頃とあまり変わっていないと思います。今の自分が何に影響を受け,何に心惹かれているのかということは自分でもなかなか掴みづらいものです。ですから,知らない世界と出会うために旅に出ます。文学,音楽,美術の世界への旅。様々なジャンルの文化と出会う旅行。ここでもひとつの世界がまた次の興味を運んでくれます。

interviewer自分の作家性や自分らしさというものは,ずっと続けていく内に生まれてくるものだと思うんですが,それを変えてみたいと思われることはありますか。

山本 私は変わってばかりですよ。私の場合,バンドエイドを描いた作品が認められましたが,だからといって一生バンドエイドを描こうなんて思いませんでしたし,次は全く違うものにしようと考えて作風を変えてきました。山本容子という作家は,作品ごとにそれぞれ全然印象が違うと言われたとしても,私の作品なのだから,それぞれに私の哲学が表現されているはずと信じてそうしてきました。若い内からそんなに怖がる必要はありませんし,むしろ,そんなものは壊して進めばよいと思います。でも,それはその作品を生み出した自分のことをきちんと理解したうえでのことですけれどね。自分を知るためにも,この作品のここが好きという部分はまず大切にするべきです。自分自身の気持ちに変化が生じた時がチャンスです。なぜならその時に時代の変化を感じることが出来るからです。自分の志向を決めつける必要はありません。



壁画のため,関ヶ原マーブルクラフト工場で線刻制作(1996年)

interviewer受験生・在学生へのメッセージをお願いします。

山本 京都芸大はその歴史も含めて,やはり質の高い大学だと思います。大学というところは,いま目にすることができるものが全てではなくて,背景として有する歴史によって形づくられているものです。京都芸大に来たら,この大学が多くの諸先輩が創り出した土壌の上に成立しているということに気付くと思います。この部分は歴史の浅い大学では補うことはできませんし,人を育てるものはカリキュラムだけではなくて,歴史によって積み重ねられた蓄積や空気が重要な役割を果たしていると思います。

 そして,ただ古いだけかといえば,決してそうでもない。古さを蹴飛ばしてきた前衛的な精神を持ち併せていて,その精神は非常に堅固なものです。まさしく「歴史」と「アヴァンギャルド精神」の両面が併存していて,人としての感性が磨かれる。渋い大学ですが,本気で学ぼうと思って入学したなら,得るものは多いですし,大きな宝物に恵まれていることに気付くことができるはずです。

インタビュー後記

 山本容子さんは制作に対して非常に真摯な姿勢を持たれている方という印象が強かったため,インタビュー前はとても緊張していましたが,実際にお会いしてみると学生のことにも思いを巡らせてくださる優しい方でした。

 インタビューは半分ほど,私たちの制作に関しての相談のようになってしまったのですが,数ある版種の中で銅版画を選ばれた理由が,「銅板が綺麗」「プレス機を回す時のワクワク感と,刷り上がった紙を捲る一瞬の緊張感」という,私自身となんら変わらないシンプルなものだったことをお聞きして,驚くと同時に励みになりました。第一線でご活躍されている作家さんということもあり,遠い存在のように感じていたのですが,この時初めて,作家という同じステージに立っている気持ちになりました。

 今回,学生時代からのエピソードを色々とお聞きしましたが,そうした様々な経験の積み重ねが現在の作家としての山本容子さんを形作っているのだなと感じました。

 今回のインタビューは,自分の中で非常に良い刺激になりました。

木塚奈津子(美術研究科絵画専攻(版画)修士課程1回生*)*取材当時の学年

 

 今回山本容子さんへのインタビューをさせていただき,京都芸大を志望された動機や,大学入学後に銅版画を選択された理由など様々なお話しをお聞かせいただいたわけですが,自分の興味のあることに対してまっすぐに向かっていけることが一番の強みに成り得るということを感じました。

 芸大生として日々制作をするなかで,「なぜ芸術に取り組むのか」「わたしがやる意味はあるのか」という疑問にぶつかることが多々あります。その疑問への回答は人それぞれでしょうが,自分が感動するものを追い求め,その実現のために努力する山本容子さんの姿勢はとてもシンプルで説得力のあるものでした。

 「自分のやってきた事だけが自分を支える自信になる」という当たり前の事ですが,日々焦るあまり忘れがちなことを改めて教えていただいたとても貴重な機会でした。

千葉あかね(美術研究科絵画専攻(版画)修士課程1回生*)*取材当時の学年

(取材日:2015年11月9日・京都市左京区内ホテルにて)

Contents

  1. 京都芸大との意外な出会い
  2. 銅版画の世界へ
  3. 作家活動の軌跡を記録する
  4. 変化をおそれずに

Profile:山本容子【Yoko YAMAMOTO】銅版画家

1952年埼玉県生まれ。1978年京都市立芸術大学西洋画専攻科修了。

1978年日本現代版画大賞展西武賞,1980年京都市芸術新人賞,1983年韓国国際版画ビエンナーレ優秀賞,1992年『Lの贈り物』(集英社)で講談社出版文化賞ブックデザイン賞,2007年京都府文化賞功労賞,2011年京都美術文化賞,2013年京都市文化功労者表彰など国内外の多数の賞を受賞。

都会的で軽快洒脱な色彩で,独自の銅版画の世界を確立し,絵画に音楽や詩を融合させるジャンルを超えたコラボレーションを展開。数多くの書籍の装幀,挿画をてがける。

また,近年は新たなライフワークのひとつとして“ホスピタル・アート”に取り組んでいる。