大学概要

  1. 京都市立芸術大学
  2. 大学概要
  3. 卒業生インタビュー
  4. 卒業生インタビュー[music_23]藤井 浩基さん 3/4

卒業生インタビュー[music_23]藤井 浩基さん 3/4

3. 韓国との出会い


interviewer_music大学院在学中に修了後の目標などは考えておられましたか。

藤井 京都芸大で学ぶなかで,研究と大学での教職にも魅力を感じるようになりました。ちょうどそんなとき,鳥取女子短期大学(現・鳥取短期大学)でピアノの非常勤講師のお話をいただき,修了と同時に実家に戻り,出講しました。

 同短大には,北東アジア諸国との交流を推進する研究機関として「北東アジア文化総合研究所」がありました。私が韓国に興味をもっていることを知った先生方が,研究所に出入りできるよう配慮してくださいました。ピアノの授業をやって,残りの時間は研究所や図書館で論文を書きました。帰宅後にはピアノや音大受験生のレッスンをして生活していました。この生活が6年半続いた後,母校・島根大学に赴任し現在に至ります。

interviewer_musicずっとピアノは続けられていたんですか。

藤井 はい,続けていました。地元ではソロや伴奏などの演奏もしていました。島根大学に勤めてからは,音楽教育の研究・指導を優先してきましたので,最近は人前で弾く機会はあまりありません。


在外研究中に参加した韓国伝統音楽のワークショップで(2003年・韓国国立国楽院)

interviewer_music京都芸大で過ごした2年間以外は生まれ育った地元にいらっしゃるんですね。

藤井 2003年に文部科学省の在外研究で,韓国国立韓国芸術総合学校音楽院の客員研究員としてソウルで過ごしましたが,それ以外に,外に出たのは京都の2年間だけですね。その分,京都での生活は新鮮でした。でも京都にいたときには観光をほとんどしませんでした。いつでも行けると思うと意外に行かないし,行けないものですね。今,思うと残念です。コンサートにはたくさん行きました。京都はホールが大小いろいろありますし,能楽堂や南座にもよく行きました。

interviewer_musicご自身のキャリアの中での最大の転機は何ですか。

藤井 韓国出身のヴァイオリニスト,鄭京和(チョン・キョンファ)さんとの出会いですね。学部3年のとき,偶然に鄭京和さんの演奏を映像で視聴し,心から感銘を受けました。こんな素晴らしい音楽家が韓国から出ているんだとはじめて知りました。名前を聞いたことはありましたが,それまでは韓国にも全く興味をもっていませんでした。とにかくこの演奏家のことが知りたくて,CDを買ったり,新聞や雑誌の切り抜きを集めたりしているうちに,日本での鄭京和さんに対する毀誉褒貶について知りました。日韓関係や日韓両国の歴史が影響しているのではないかと思い,日本人としてこれは勉強しないといけないと感じました。その後,来日公演をはじめ,韓国ほか海外でも演奏を聴き,ご本人とも面識を得る機会がありました。

interviewer_music今も鄭京和さんとの交流はあるんですか。

藤井 1998年に地元・米子市に新しいホールが建設され,そのオープニングとして地元の新聞社からクラシックの演奏会の企画を依頼されました。私は迷わず鄭京和さんのリサイタルを提案しました。鳥取県は日本海を挟んだ北東アジア諸国との交流を推進しています。そういうコンセプトも詰めていき,最終的に鄭京和さんにお願いすることになりました。

 とはいっても,世界屈指の演奏家です。夢のような話でしたが,何度かお願いに行ってようやく公演を承諾してくださいました。私は実行委員会を取りまとめ,鄭京和さん側との調整にも当たりました。おかげさまで2000席のチケットは完売しました。

 本番の準備を進めていた数ヶ月前,ホールの諸事情で公演日が当初の予定から1週間ほど遅れることになりました。世界を飛び回る鄭京和さんの予定が1週間も空くなんて大変なことです。お詫びをし,対応について主催者や招聘元とも協議をしました。すると,何と鄭京和さんが1週間を米子で過ごされることになったのです。思いがけず空いた1週間は,自然豊かな鳥取県で充電したいとのことでした。その間,私はずっとご一緒させていただきました。練習も目の前で聴きました。「これから取り上げようと思っているのよ」と,聴かせてくださったエネスコのソナタ第3番は,今も耳から離れません。

 5月で天候もよく,毎日,近くの海や山へ散策に行ったり,食事に出かけたりしました。その間,超一流の演奏家の音楽観や興味深いエピソードを聞かせていただき,音楽に携わってきてこんな幸せな時間はありませんでした。演奏会は大成功でした。

 その後,私が結婚し子どもが生まれた時も,お祝いのカードを送ってくださいました。一昨年,家族で来日公演に行きました。楽屋を訪ねたところ,子どもたちの頬に真っ赤な口紅の跡が残るほどキスをし,歓迎してくださいました。後日,CDセットが届きました。そこには「たくさんの思い出とともに・・・ずっとよき友人でいてくれてありがとう」と英語でサインがしてありました。今でも鄭京和さんの演奏は研究の原動力になっています。

interviewer_music30歳の若さで大きなコンサートの企画を任されたというのはすごいことですね。

藤井 音楽学や音楽教育学を研究し,ピアノの演奏にも自分なりに向き合ってきたわけですが,こうした学びや経験が,大きな演奏会の企画・運営に役立ち,自身のキャリアデザインにおいても,大きな自信につながりました。

インタビュアー:真鍋実優(音楽学専攻4回生*取材当時

(取材日:2016年10月18日・本学大学会館にて)

Contents

  1. 山陰から京都へ−音楽教育への思い−
  2. 多角的に学んだ音楽科教育の内容
  3. 韓国との出会い
  4. 音楽の引き出しをもつ【2017年11月22日公開予定】

Profile:藤井 浩基【ふじい・こうき】大学教員

1967年鳥取県生まれ。1993年京都市立芸術大学大学院音楽研究科(修士課程)音楽学専攻修了。2003年韓国国立韓国芸術総合学校音楽院客員研究員。博士(芸術文化学:大阪芸術大学)。

専門は音楽教育学。日韓音楽教育関係史,地域の音楽の教材化をテーマに研究を重ね,著書に『日韓音楽教育関係史研究』(勉誠出版,単著),『島根の民謡』(三弥井書店,酒井董美氏と共著)などがある。

現在,島根大学教育学部教授(音楽科教育)。