第2回アーカイブ研究会「それってテクノロジーと何の関係があるの?」

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 8月2日に第2回アーカイブ研究会が開催された。第二回目の研究会では,1973年から2013年までニューヨーク近代美術館(MoMA)に勤務し,ビデオおよびメディア部門のキュレーターを務めたバーバラ・ロンドン氏をお招きし,「それってテクノロジーと何の関係があるの?」というタイトルでお話いただいた。ロンドン氏の40年にわたる美術館勤務と研究実践の過程を紹介しながら,目まぐるしく変化するメディアテクノロジーの状況と,それにつれて新たな表現方法を模索した若手作家たちの活動の様子について,多くの画像や映像,音源などを用いながらの,内容の濃い発表となった。

冒頭でまずロンドン氏は1930年代のMoMAの様子を示し,その入り口に「Art in Our Time」という旗が掲げられているのを確認する。つまり,MoMAは設立当初より,何よりも同時代の美術に注目することで現代と過去を繋ぎ,またそれを未来へと橋渡しすることが目指されていたのである。実際にはそれは簡単なことではないが,こうした基本的な姿勢により,MoMAではいち早く最新の技術を取り入れた同時代の作家たちの実験的試みに対しても門戸を開くことができ,そのコレクションへと加えていくことができたのである。もちろん,73年よりビデオ,メディア部門のキュレーターとなったロンドン氏の奮迅の働きがあってこその成果であることは言うまでもない。
 1960年代半ばのニューヨークでは,ビデオカメラを持つ人は一握りだったが,その機材を互いに調達しあい,様々な表現が次々に生まれてきた歴史が紹介された。ウォーホルのファクトリーに集う,アンダーグラウンドの音楽家と美術家らの交流も見逃すことのできない重要な要素である。また,そうした新技術を取り入れて制作しようとする作家たちを技術面で手助けする役割を担った人々もいた。こうしたサークルの共同作業によって,次々と作品が生み出されていく。ナム・ジュン・パイクとも,ロンドン氏は早くから知り合い,その制作の過程をずっと見守ってきた。
 このような新たな動きを前にして,それがどのようなものであるか整理し,理解したいという機運が高まり,1973年には北米及びカナダ,日本やヨーロッパより作家,批評家,キュレーターら映像を使った表現に関わる専門家50名が集まっての会議がニューヨークで開催され,そこには日本から松本俊夫氏も参加していたという。70年代のニューヨークでは,そうした実験的な表現に対するいくつかの助成金やサポートの仕組みがすでにあり,日本とは状況が異なると報告されたようである。
 ただしそうした援助も,残念ながら景気の後退と共に,80年代半ばには消滅してしまったということである。ところが90年代以降徐々に,使い勝手が良く,また安価な機材が手に入るようになり,21世紀に入るとすっかり様子が変化している。ロンドン氏はダムタイプの古橋悌二氏とも卒業間もない頃に知り合い,以後ずっと交友を深められた。彼らのインスタレーション《ラヴァ―ズ》は,MoMAのコレクションとなっている。
 プレゼンテーションは,昨年MoMAで開催されたロンドン氏企画の展覧会「Soundings: A Contemporary Score」の紹介で終わったが,その後の質疑応答では,技術は美術館や学芸員,批評家たちの態度を変えただろうか,技術の進歩/変化につれて,機材も変化していかざるを得ないが,その際,データや情報が大切なのか,機材なのか,といった本質的な問いが会場からたくさん出た。技術の進歩のおかげで,かつて困難だったことが手軽にできるようになったことはプラスの側面であるが,一方で,全て新しいほうがいいかというとそういうことではなく,例えばメディアアート作品を収蔵する場合には,作家からとても詳細な指示書,コンセプトシートをもらい,何が重要であるのか丹念に聞き取りを行うそうである。メディアアート部門には修復家が3名おり,作品の状態保全にあたっているということであった。時代と共に変化する技術にどのように対応していくのかは,どの現代美術館もが直面している問題であるが,MoMAは早くからその対策にも乗り出し,体制を整えている様子がうかがえた。
 今年はダムタイプ結成30周年なのに,京都市立芸術大学が芸術資源研究センターを立ち上げたのなら,なぜ記念行事を行わないのか,という指摘もあり,これについては学長より,まだあまりにも生々しい記憶が残っているので,距離を取るのが難しいというような説明があった後,時期を見て,彼らのパフォーマンスの再現をどうするのか,資料をどう活用するかということについてはセンターとしても重要な問題として扱っていきたいという返事があった。芸術形態が多様化する現代,特に作品を収集保存する現代美術館はどこも,メディアを用いた表現やインスタレーションをどのように扱ったらよいのか,手探りで試行錯誤を続けているところではないだろうか。互いに連携し,情報を共有しながら,その作品にとって最良の展示環境を考えることの重要性について考えさせられる貴重な機会となった。また,メディアアートのアーカイブのあり方についても,まさに現在直面している緊急の課題として,様々な可能性も含めて講演後の懇親会でも話題となった。今後も継続して取り組んできたい問題の一つである。

(京都市立芸術大学美術学部准教授 加須屋明子)

第2回アーカイブ研究会
「それってテクノロジーと何の関係があるの?」
日時:2014年8月2日(土曜日)13:00—15:00
会場:京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA
講師:バーバラ・ロンドン
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