第7回アーカイブ研究会 映画『ASAHIZA 人間は,どこへ行く』上映+トークの報告

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 第7回アーカイブ研究会では,映画監督・美術家である藤井光氏をお招きし,藤井氏の最新作である映画『ASAHIZA 人間は,どこへ行く』の上映会とトーク・イベントを開催した。
 映画『ASAHIZA』は,福島県南相馬にある映画館,朝日座を主題としたドキュメンタリー映画である。本作は大きく二つのパートから構成されている。第一のパートは,関東大震災が起きた1923年に開館し1991年に閉館した朝日座についての思い出を地元の人たちが語る映像で構成されている。もう一つは,この第一パートを東京からバスでやってきた人たちが南相馬の人たちと一緒に朝日座で観賞し,それについて語り合い,やがてバスで東京へと帰っていくというパートである。抑制の効いた控えめなカメラワークによって写される人々の語りや対話を通じて,朝日座のみならず,それを取り巻く南相馬の暮らしや歴史,そして東日本大震災の記憶が少しずつ立ち現れてくる。「被災者/被災地」と一言で括ってしまうと零れ落ちてしまう生きられた歴史的な時間や記憶が,朝日座を起点として蘇ってくる,そのような映画であった。
 本学美術学部の小山田徹教授を聞き手として行われた藤井氏のトーク・イベントでは,主に本作の制作の経緯や製作方法についてお話いただいた。本作の多くの部分は朝日座について語る南相馬の人々の映像で構成されている。南相馬の人たちに藤井氏が投げかけたのは,「朝日座を知っていますか?」というひとつの問いだけであったそうだ。この問いを起点にして朝日座の思い出や当時の暮らしについて語る人々の姿を,藤井氏は固定カメラで正面から淡々と撮影していた。それゆえ,語られる内容だけではなく,過去を思い出そうとする彼/彼女たちの表情や,その身振りが強く記憶に残る。トークの中で藤井氏が,語られる内容そのものよりもカメラの前で語り手を演じ過去を語っていく中で,彼/彼女たちが変容していく様に惹かれていたと語っていたのが印象的であった。
 また,藤井氏は被災地を取材した多くの映画が非-被災地ばかりで上映されていることについて言及されていた。映画館の閉館をテーマにした本作のような映画は,ともすればどこか遠くの街についての美しいノスタルジックな物語として観られかねない。そうしたことを避けるために,朝日座についての映画(第一のパート)をまさにその朝日座で上映し,それを外から来た東京の人たちが観る場面,つまりは他者の視線を作中に取り込むことで,本作を他者の物語ではなく「私たちの物語」として経験してもらおうとしたということであった。
 会の最後に小山田教授は,東日本大震災が起きた2011年には,様々な映像メディアが普及し,誰もが容易に映像を撮ることができるようになっていたことを述べられていた。例えば阪神・淡路大震災が起きた1995年当時と2011年の震災とでは,それを取り巻くメディア環境が全く異なっている。メディア環境の在り方が震災についての人々の感覚を条件付けているのではないかという藤井氏の応答は,本研究センターの活動にとっても非常に示唆に富む指摘ではないだろうか。

(芸術資源研究センター非常勤研究員 林田新)

第7回アーカイブ研究会
映画『ASAHIZA 人間は,どこへ行く』上映+トーク
日時:2015年1月19日(月)17:30—19:30
会場:京都市立芸術大学中央棟3階講義室1
講師:藤井光(映画監督・美術家)
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