第6回アーカイブ研究会 「チェルノブイリ・ダークツーリズムの実践から」の報告

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 第6回アーカイブ研究会は,思想家・作家の東浩紀氏をお迎えして,「チェルノブイリ・ダークツーリズムの実践から」と題するお話をしていただいた。
 東氏は,2011年の福島第一原子力発電所事故の後,1986年に原発事故があったチェルノブイリに行き,その取材をもとに,『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド(思想地図β vol.4-1)』(ゲンロン,2013年)を刊行した。これからの福島を考えるうえで,原発事故後のチェルノブイリの復興の様子が参考になると考えたからである。チェルノブイリは現在観光地化されており,ゾーンと呼ばれる半径30km圏内の区域にも入ることができる。こうしたチェルノブイリの現状を踏まえて,東氏は,福島第一原発を観光地化する福島第一原発観光地化計画を発表すると同時に,旅行会社とともに,チェルノブイリへの観光ツアーを企画した。
 今回のレクチャーは,チェルノブイリ観光ツアーの様子を写真で紹介しながら,現在チェルノブイリがどのようになっているのか,そこで暮らし働いている人々や,そこを訪れる人々はどんな人たちなのかを伝えてくれるものであった。
 東氏は,実際にチェルノブイリに足を運ぶと,原発推進/反原発の二分法が意味をなさなくなると言う。チェルノブイリには,当時の建築がそのまま残されている一方で,ニガヨモギの星公園やチェルノブイリ博物館,宿泊施設などが新たに作られていた。そこには,原発や放射線などに関する大量の情報,ディテールがあり,それらはイデオロギーによる分割になじまないものだと言う。それらに対して性急に判断を下すのではなく,判断を留保したまま,そのディテールを具体的に記憶していくこと,そして,それらを未来につなげていくことが重要であると述べた。
 さらに,地震,津波,原発事故といった災害は,日本国内だけでなく世界各地で起こっているため,国内の問題としてではなく,グローバルな視点から議論をしていくべきだとして話を終えた。
 単純なイデオロギーへの回収を拒むディテールの大切さは,アーカイブについて考えるうえでも重要である。性急な判断の留保がむしろ記憶の継承に繋がっていくという考えは,芸術作品を介した「創造のためのアーカイブ」を構成する仕組みのひとつになるように思う。また,人類の負の遺産を観光する「ダークツーリズム」の発想は,社会批判的な傾向,人類学的な傾向を強める今日の現代美術を考える際に役に立つ。なぜなら,そうした現代美術を,批判の強度よりも記憶の継承という視点から再解釈することができるからである。教室がいっぱいになるほど集まった聴衆は,東氏のレクチャーから,芸術と社会の問題を考えるうえで参考になる視点と論点をいくつも得ることができたのではないだろうか。

(芸術資源研究センター准教授 加治屋健司)

第6回アーカイブ研究会
「チェルノブイリ・ダークツーリズムの実践から」
日時:2014年12月7日(水)17:00—18:30
会場:京都市立芸術大学中央棟3階講義室1
講師:東浩紀(思想家・作家)
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