第4回アーカイブ研究会「ダイアグラムと発見の論理」の報告

IMG_5999
 第4回アーカイブ研究会は,東京大学大学院の田中純教授をお迎えして,「ダイアグラムと発見の論理 アーカイヴに眠る「思考のイメージ」」と題するお話をしていただいた。田中氏は,ダイアグラムを要素間の関係を表現したものと捉えたうえで,そこにとどまらない「思考のイメージ」全般について論じた。
 「思考のイメージ」とはヴァルター・ベンヤミンの言葉で,明確な思考になる前の,心に浮かぶ断片的なイメージであり,思考の極限に触れるものである。こうした「思考のイメージ」は,予感や余韻を感じ取り読み取る「徴候的知」(カルロ・ギンズブルク)の表現であると田中氏は述べる。
 田中氏は,「徴候的知」の表現として,アルド・ロッシによる骨組みの建築ドローイング,ベンヤミンの細かい字による書記,アビ・ヴァールブルクの「ムネモシュネ・アトラス」などを例に挙げながら,それが発見法のメディアとなっていると論じた。続けて,ニコラウス・ガンステラーやチャールズ・S・パース,ヴァールブルクのダイアグラム,文化人類学のドローイングなどを紹介して,それらにアブダクション(パース)の方法を見出しつつ,思考のミニチュア化の媒体としてのダイアグラムについて考察した。最後に,東大駒場で行ったムネモシュネ・アトラスの展覧会や,ジョルジュ・ディディ=ユベルマンによるインスタレーションなどを示しながら,ヴァールブルクの思考の運動を再現しつつ,ダイアグラムがもつ可能性を示して話を終えた。
 田中氏のお話は,ダイアグラムが作家の創造だけではなく研究者の思考にも関わっていることを示している点で,作家と研究者の双方が関わる芸術資源研究センターにとって示唆に富むものであった。ダイアグラムとは,アーカイブの中の手稿にひそむ知の表現であると同時に,体系化しえないアーカイブに対するアプローチの方法でもあると考えれば,田中氏の考察は,芸術資源研究センターが掲げる「創造のためのアーカイブ」を,技術だけでなく理論においても深めていく上で,大いに役立つものであるように思われた。

(芸術資源研究センター准教授 加治屋健司)

第4回アーカイブ研究会
ダイアグラムと発見の論理──アーカイヴに眠る「思考のイメージ」
日時:平成26年10月31日(金曜日)午後5時から6時半
会場:京都市立芸術大学大学会館交流室
講師;田中純(東京大学大学院総合文化研究科教授)
詳細

アーカイブ

ページトップへ戻る