塩見允枝子氏の特別授業「水を演奏する」

2017年11月17日(金),大学会館ホールにて,芸術資源研究センター特別招聘研究員・塩見允枝子氏の特別授業「水を演奏する」が行われた。美術学部の共通授業・造形計画2B「水のポイエティク」(担当教員:井上明彦)を拡張し,美術・音楽両方の学生に参加可能として,音楽学部では柿沼敏江教授に呼びかけを行っていただいた。大学会館でのパフォーマンスによる美術・音楽合同の特別授業としては,2015年6月の「FLUXUSパフォーマンス・ワークショップ」に次ぐものとなる。授業2コマ目(10:40~12:10)という時間帯は,造形計画2Bの授業テーマとの関連性による。というのも,4月に塩見氏の『パフォーマンス作品集 フルクサスをめぐる50余年』のデザインのためにご自宅で相談していた際,今年度の授業は水とそれに関わる芸術表現をテーマにすることをふとお話したところ,強い関心を示され,水をテーマにしたパフォーマンス演奏会を授業として行うアイデアが生まれたのである。

実際,塩見氏の仕事には,《ウォーター・ミュージック》(1964年)をはじめ,水にまつわる作品が多い。そもそも「フルクサスと水は切っても切れない関係」(柿沼敏江)なのである。

しかし,演奏会の指揮はハードな仕事であり,体調次第ということにしていた。ところが7月末に「水を演奏する」をテーマに,その場で3曲のリハーサルと本番を行うワークショップ案が塩見氏から届き,9月には3つの曲(演奏の指示書)が送られてきた。驚くべきことに最初の2曲は新作であった。

 

1.《水の回路》Water Circuit 

2.《水の会議》Water Conference

3.《ウォーター・ミュージック:ヴァージョン2012》 Water Music: version 2012 (1964/2012)

《水の回路》は,16個の椅子と机を円形に配し,16人の奏者が譜面に従って水が半分入ったガラスコップを叩き,隣の奏者に水を移すことを繰り返す。メトロノームに沿っていたテンポは奏者それぞれが自由に加速していく。最初は規則的だった音とリズムは乱れ,しだいにカオス状になる。指揮する塩見氏の笛の音がその流れを断ちきり,次なる変化と動きを促す。最後は奏者全員が水を持って屋外に出て,各々が「循環させたいと思う回路」に水を流す。

《水の会議》は,「地球を表面から見た場合,全体の約71%が海水に覆われています」といった,水に関する言葉を,役割を割り振った総計14人の奏者が,グラスハーモニカ,水入りペットボトル,金属容器,そして水笛で模倣してやりとりするものである。楽器でないものを楽器とし,言葉の不可能な模倣を介して会議するという,ナンセンスなユーモアにあふれた詩的パフォーマンスである。

《ウォーター・ミュージック:ヴァージョン2012》は,水の入った水槽のまわりで5人の奏者が輪になり,「世界中の水河が融けると/広い海の上にも水柱が立ち/中心部は渦巻いているので危険です/プールの水にピアノを浸してドビュッシーの「水の反映」を弾いて下さい/明日は雨になるでしょう」といった5節の言葉が記されたカードをそれぞれ読み,水槽に投げ入れることを繰り返す。輪はだんだんと縮まり,すべてのカードが水槽に入るまで続けられる。複数の言葉とピアノ演奏が交じり合うのを聴きながら,水槽に入るか入らないかわからないカードの落下を見つめることは,コントロールできない水の流れを体験することに似ている。

塩見氏の作品の核には,「音以上・詩未満」(*1)の言葉を軸にした音楽的時間の場の創出がある。いずれも奏者の自由な解釈や創意を促し,規則と無規則の弁証法が未知の輝きを生む。奏者は美術16名,音楽14名で,学生・院生・卒業生を含む。彼らにとっても観客にとっても,塩見氏の衰えを知らないみずみずしい創造力を通じて,生きた世界の多様性に触れる場となった。

(美術学部教授 井上 明彦)

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