更新日 : 2017/4/10
来るべきネットワーク
求められる人材と研究機関
タイムベースト・メディア作品の保存修復に関して,テートやグッゲンハイム,MoMAなどがコンサベーションセクションの中に専門部署を設けるなど,組織だった動きを見せている。しかし,日本では保存・修復に特化した部門を美術館内に設けられることも少なく,多くの場合,作品管理と展覧会企画,教育普及などを同時に行わなければならない。その中で,新たにタイムベースト・メディア作品の展示から保存,修復に至るまでを対処できる状況を美術館内で備えることは難しい。
平成22年度に文化庁より森ビル株式会社が受託した「メディア芸術情報拠点・コンソーシアム構築事業」に際して行われたタイムベースト・メディア作品に関する各館への聞き取り調査が行われた。その中で,「コンピュータや機材に精通したスタッフの不足」や「財政状況や学芸員の専門性による難しさ」が指摘され,その対応策として「相互連携の仕組みや「各館事業を補助できる専門機関の設立などが挙げられていた。しかし,実際にはどのような課題があり,どのような解決策が相応しいのだろうか。
現状の課題 設備①
NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]や山口情報芸術センター[YCAM]など,メディアアートに特化した施設を除けば,タイムベースト・メディア作品に関する専門技術を有したスタッフの配備や必要機材の充実などが計られている例は少ない。一方,平成22年の森ビルの調査対象となった館(註1)に加え,国立近代美術館,国立国際美術館,東京都現代美術館,金沢21世紀美術館,横浜美術館などにもタイムベースト・メディア作品がコレクションされている。これだけ多くの館がタイムベースト・メディア作品のコレクションを持ちながらも,同分野を扱う上で必要な要件が整わないのはなぜだろうか。
ICCが2016年に発行した「ICCオープンスペース 10周年の記録」にZKMメディア・ミュージアムのベルンハルト・ゼレクセが寄せた論考の中で,「デジタルを基盤とする「技術的発展が急速に進めば進むほど,アート作品の「半減期」は短くなる。」と述べている。つまりデジタル技術の進歩の発展は,既存の機材や技術,ノウハウが陳腐化する速度がこれからますます早まることを指摘している。従って、その速度に対して並走し、かつ時代ごとの技術や機材を保管していくための人材,設備を確保する必要がある。しかし,美術館が最も多く投資出来るタイミングは開館時であり,それ以降に安定的に設備投資を行ったり、組織改編をすることは非常に難しい。こうした状況がタイムベースト・メディア作品を扱うことを難しくしている。
日本の美術館の建設ラッシュが始まったのは90年代から2000年代初頭で,その時期は奇しくも映像規格のデジタル化が進んでいった時期と重なる。そのため,開館当初に予算をかけて映像に関わる設備投資を行っていたとしても,多くの機器がすでに現在のメディア環境に対して遅れたものとなっている。従って,今の作品に対応する設備投資を行うことが望まれるが,また十数年のうちに現在の機器が古くなってしまうことが目に見える状況でその設備に投資するべきかという判断が生まれてくる。タイムベースト・メディア作品を頻繁に扱う館であれば,それだけの設備投資を行う必要性が高い。しかし,専門館ではなく,設備の使用頻度が少ない場合には採算性が低くなってしまう。加えて,仮にその変化をくまなく追いかけて行くためには,時代ごとの機器を保管し,メンテナンスし続ける必要がある。しかし,古くなった機材に対するメーカー保証はなくなり,そのメンテナンスを依頼できる先も少なくなってくる。その中で,機器をいかに保持するかは大きな課題である。ブラウン管テレビ,磁気テープなどを使用するビデオアートや初期のメディアアート作品が直面している問題はまさにこの課題である。また,今後テクノロジーを使うという行為が日常化するにつれ、メディアやテクノロジーを問題にしていなくとも、作品一部に取り込まれるようになる。そうした際に、技術的な課題から同時代を表象する作品収集や展示が阻まれてしまう可能性がある。
註1 平成23年3月発行「メディアアートの記録と保存 調査研究報告書 平成22年度メディア芸術情報拠点・コンソーシアム事業」の中で、NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]、川崎市民ミュージアム、熊本現代美術館、せんだいメディアテーク、東京都写真美術館、豊田市美術館、日本科学未来館、広島市現代美術館、福井県立美術館、福岡アジア美術館、水戸芸術館、山口情報芸術センターのコレクションについて調査が行われた。
人材育成について
多摩美術大学美術学部情報デザイン学科、情報科学芸術大学院大学 [IAMAS] 、東京芸術大学映像研究科など、タイムベースト・メディアに含まれる映像やメディアアート制作を指導する教育機関は少なくない。その一方,山口情報芸術センターなどの特殊な事例をのぞけば,こうした教育機関から出てくる人材を美術館などが専門員として受け入れる枠組みが整っていないのが現状である。
また、タイムベースト・メディアと一口に言っても,フィルムやビデオ,初期コンピュータから,最先端の機器やプログラム,センサー類など,多様な装置や技術が用いられているケースも多く,必要なスキルが多岐にわたるため一人のスタッフが網羅的にまかなうことはほぼ不可能である。そのため,使用されている技術ごとに専門性の異なるスタッフが必要になる。しかし,それら異なる専門性を持ったスタッフを配備することは人件費の拡大につながる。現実的な線として、タイムベースト・メディアの修復、展示などを行う場合、外部の技術者に頼らざるをえない。*
こうした現状から考えると,タイムベースト・メディア作品の展示や保存を担当する者は,こうした異なる専門性を持った外部リソースとのネットワークを持ち,作品ごとに必要なチームを組み,その進行をマネージメントする能力が求められる。また,作品を収集する際にあたっては,作品の特性を理解し,再制作に必要なドキュメントを残すことと,収蔵されている作品資料から作品を再展示するにあたって必要な要件を読み解く能力も必要となる。しかし,こうした人材の前例は乏しく,今後,各館が事例を共有していくことで経験の集約から作品ごとに柔軟に対応できる素地を整えていくことが必要不可欠であろう。
求められる人材と設備
タイムベースト・メディア作品の展示や修復、保存にあたってどのような人材や設備が必要か考えることから、今後必要な整備について考察したい。
これまでも各章で触れてきたように、タイムベースト・メディアと一口に言っても実に多様な作品形態が含まれる。そのため、作品形態ごとに必要とするスキルや設備は異なる。
「展示」の章でフィオナ・タンの《インヴェントリー》を挙げたが、こうしたマルチチャンネル・ビデオインスタレーションの展示にあたって、以下のような作業が必要となる。
- 作品仕様書に指示される展示構成をもとにした実際の展示会場への落とし込み
- 作品仕様書に指示される機材構成をもとにした機材選定および調達
- 必要に応じた映像素材の変換作業
- 機器の設置および映像の色彩などの調整、音像の調整
- 展示開始後、会場管理者へ引き渡すための起動、終了マニュアルの作成
一方、こうした作品の保存に関しては、以下のような点が挙げられる。
- データを保管するためのデータストレージ(HDDや前出のLTO、光ディスクなど)
- 作品仕様書の保存、および過去の展示の際に行われた際の図面ややり取りの履歴
- 必要機材の保管
- 既存の機材が使えなくなった場合など、将来的に起こりうる事態に向けた留意点
ただ、インタラクティブ・インスタレーションなどでは、プログラミングや固有の装置を必要とし、年月が経ち、既存の機器が使えなくなった場合には、別のプログラムや機器の置き換えや修理が必要な上、実装テストのための場所や制作環境といったものも必要となる。また、実験映画に代表されるようなフィルムを用いた作品では、低温低湿の保管庫、映写技師に加え、デジタル化や修復、デュープ(複製)の作成を行える環境が必要である。そして、アナログビデオを用いた作品ではオリジナルテープを再生・表示するための機器が必要となる。
ここまで挙げただけでも以下のようなスキルが必要となる。
- 空間設計
- 映像機器の選定/オペレーション
- 音響機器の選定/オペレーション
- 映像編集
- サウンドエンジニアリング
- プログラミング
- エミュレーション
- デジタルデータ管理
- アーカイブ管理
- フィルム映写/デジタル化/デュープ作成
- 映像、音響、その他機器の修復
もちろん作品によってはこれだけではおさまらない。キネティック・アートなどで電気駆動する場合には、その内部構造を理解して修復することなども必要となる。その他、直接的には見えてこない部分だが、作品知識と技術用語を理解し、全体管理を行うマネージメント的ポジション、美術史や技術史を持ち同分野の動向に関するリサーチャー、複製や再制作、二次資料に関する法律の専門家などが必要となってくる。
ここに挙げた中には、フィルムのデジタル化や保存、プログラムのエミュレーションなど、外部に委託していくことも可能だろう。しかし、時代の更新とともに失われていく機器や技術が常に担保されていくとは限らない。とりわけ、古いプログラムやアナログ機器のリプレイスは困難な状況にある。
だが、こうした作品がスタンドアローンで成立するものばかりではない。例えば、ネットアートなどは、時代時代のネット環境に依存する。これらを保存するためには、その環境そのものを保存するということになる。今後も時代ごとの環境に依存した作品も生まれてくる可能性は高い。こうした場合にどのように対処するべきか議論を重ねる必要がある。また、TATEではライブ・アートという言葉が掲げられ、パフォーミング・アートなども対象としている。単なるビデオ記録以上の成果を求めるならば、しかるべき記譜法や記録法が検討されるべきであろう。
20世紀のアートを紐解いていくと、絵画や彫刻といった権威化した既存の芸術様式に対するアンチテーゼとしての運動や劇的に変化し続けてきたメディア環境をもとにした実験が重ねられてきた。こうした運動を美術として再評価し、体系化して残していこうという機運の高まりから、タイムベースト・メディア作品の保存というテーマが浮上している。しかしここには、枠を破ろうとしてきたものと、ある形態の中に閉じ込めようとするものによる大きな矛盾がある。しかし、それを超えてそれぞれの同時代を後世に残し、また再解釈されていく可能性を担保していく必要があるだろう。この自己矛盾を抱えたこの行為を継続し、過去と未来の橋渡しを行おうとするならば、より戦略的で組織的な動きが必要不可欠であろう。
研究機関の必要性
前項で述べた通り,タイムベースト・メディア作品の保存から修復までに必要な機能は多岐にわたり,各館が網羅していくことは難しいと言わざるをえない。理想的には時代ごとの主要な機材やセキュリティの行き届いたデータサーバを保有し,かつ必要な人材が集結した組織があるにこしたことはない。しかし,それをするためには大きな組織が必要となる。また,美術館など保有している作品はそれぞれの美術館ないし自治体が所有するものであり,中央集権的な組織作りによってその権利を侵害するような方向性に陥る危険性も指摘しなければならない。しかしその一方で,タイムベースト・メディア作品を取り巻く状況は刻々と変化する。そのため,せめて作品購入時や修復時に進行をサポートしながら,ケーススタディを集約していく研究機関が必要であろう
仮想タイムベースト・メディア研究所
ここでは,仮にタイムベースト・メディア研究所(以下TBM研究所)の設立をめざし,その業務内容と業務体制をシュミレーションしていく。タイムベースト・メディア作品や必要な技術者を集め,中央集権的に行うという方向性もありうるかもしれない。しかし,その場合は膨大なコストがかかる。そのため,今回ここで構想したことは美術館などが,作品の収集や保存,修復を行う際の補助を業務の柱とし,その事例を一極集中させ,集約された事例をレファレンスとして研究者同士で共有していく仕組みを骨格としている。
想定しうるTBM研究所の基本構想は以下の通りである。
<基本コンセプト>
- TBM研究所は,美術館等がタイムベースト・メディア作品を収集・保存・展示・修復することを支援し,同一分野の研究を促進するため実施事例をアーカイブし,研究機関同士で事例を共有する基盤を作り出す。
- 必要最小限での運営体制を組織し,必要に応じて外部機関や専門家と連携,多様なメディアに対応する柔軟なネットワークを構築する。
- ビデオ機器をはじめとする生産停止となった機器の延命処置を可能な限り行うため,専門技術者を交えた研究活動を行う。
- 国内外の専門機関と研究交流を促進する。
- 蓄積した知見や技術を将来の創作活動のために生かすと同時に,創作者の権利が侵害されないための共有のためのライセンス研究を行う。
以下に想定しうる業務内容とその目的についてまとめた
コーディネーション業務
タイムベースト・メディア作品を美術館等が収集、展示、修復するために、専門家、機材を手配し、その進行管理を行う。
作品購入補助
- 作品仕様書設計
- 展示マニュアル,図面,機材リスト,機材配線図などの作成
- 一次資料,二次資料に関する権利処理のサポート
- 作品の保存方法に関するサポート
- 保存用,展示用,プレビュー用,バックアップの作成
- 納入機器のメンテナンスガイド
- 作家および専門技術者インタビュー(動画,テキスト)
- 再制作・修復マニュアルの作成
- テスト展示の実施
- 機材調達/貸出
作品展示補助(作品貸出時の現場監修含む)
- 技術者の手配
- 進行管理/調整業務
- コレスポンダンス補助
- 展示中の保守・運用マニュアル作成
- 展示記録の撮影
- 機材調達/貸出
作品修復
- 技術者の手配
- 進行管理/調整業務
- コレスポンダンス補助
- 修復記録の作成
- 次回修復時用レポートの作成
機材の収集・保存・管理
時代ごとに異なるタイムベースト・メディア作品の機材を収集し、可能な限り修復技術の継承と延命処置を行う。
機材貸出および保守
- 機器の収集(市場からなくなる危険性の高い機器を優先的に購入)
- 機器の保守管理
- 機器の貸出
- フィルム/ビデオ機器の修理、保守
- その他,関連備品の収集・保守・貸出
- 技術者からの技術継承
作品・資料の保存支援と共有システム
煩雑なデータ管理を代行し、クラウドストレージでのデータ保存を行う。また、保存作品については所有者、著作権者とライセンスの取り交わしを行い、研究者間での共有を促進する。必要に応じて作品の寄託受入と貸出、展示監督を代行する。
作品の保管
- クラウドストレージの運用・保守管理
- クラウドストレージ上での映像データ保管
- クラウドストレージ上での関連資料保管
- 展示用データ作成および送信
- オンライン閲覧システムの提供
- クラウドストレージ上に預けているデータの閲覧システム構築
- オンライン閲覧システムのセキュリティ管理
- 利用者向けパスワードおよび調査研究向けパスワードの発行
- ライセンス設計
- 作品の寄託受入
- 作品のメンテナンスおよび管理
研究および連携促進
学芸員や研究者、アーティスト、学生など関係者間での交流を促し、研究や創作活動を支援する。
研究・連携
- 研究者向け資料公開
- 研究会・講習会の実施
- 大学・専門機関との連携
- 技術・人的交流の促進
- 学生インターン受入
- 海外事例の調査
- 海外タイムベースト・メディア関連機関との連携促進
- 海外専門家の招聘
- フィルム/ビデオ技術者の雇用
これらの業務をカバーする組織を作る上でまずは,調査段階を経て,実施段階へと移行していく必要がある。下記に調査段階と実施段階を分けた関係図を記載した。
まず,このフェーズ1について解説する。この段階では調査とネットワーキングが主な業務となるため,組織構成員をリサーチャーとしたが,実際にはファンドレイズや事務作業など組織運営に必要なマネージャー的役割が必要である。まず,ここに書かれている各外部組織等とその関係について説明する。
①国内美術館
収蔵作品や収蔵状態,設備状況,人員体制を調査していくとともに,今後,修復が必要となる作品の方向性を話し合う。また,緊急性が高い劣化したフィルムやテープのデジタル化やデュープ制作を支援する。
②海外美術館
ここでは主にアジアの美術館を対象としている。中国や韓国,台湾でもタイムベースト・メディア作品の収集が行われているようになっているが,まだ,その方向性は探り探り進めている。そのため,次のフェーズで行うコーディネーション業務を必要するかどうかや,協力関係を結んでいくことが出来るかなど,可能性を探る。
③アーティスト・コレクター・ギャラリー
アーティストやギャラリーが作品販売の際に,コレクターが作品購入の際に,どのように仕様設計やデータ整理を行えばよいか分からないこともある。そのため,TBM研究所のコーディネーションを必要とする場合も起こりえる。どのようなニーズがあるかをヒアリングする。
④助成団体等
コーディネーション業務を行うことで収益を挙げていく可能性はある。しかし,スタートアップのタイミングは収益構造がなく,また,作品の保存に関わる以上,継続性を担保する必然性がある。そのため,助成事業からのファンドだけではなく,組織運営に最低限必要な公的資金が導入されることが望ましい。
⑤インキュベーション施設等
実際に始動し始めると,事務所の他に機材室や仮設置を行うスペース,工作室などが必要となる。そのため,スタートアップ時には特にインキュベーション施設等の協力が必要となる。
⑥海外研究機関
TATEやMoMA,ZKMなど,タイムベースト・メディアの保存研究に早くから取り組んできた組織の状況調査。実地調査や招聘なども視野に。
⑦国内研究機関
YCAM,ICCなどの先行するメディアアート専門機関,多摩美術大学情報デザイン学科やIAMASなどの大学との人的,技術的連携を行う。
⑧エンジニア・プロダクション
映像音響機器の設置に長けた技術者,プログラマー,映像制作,施行業者など,タイムベースト・メディア作品の保存・展示・修復に欠かせない技術者とのネットワーキング。案件ごとにチーム編成を行う。タイムベースト・メディア作品への理解度が重要。
⑨ライセンス関係専門家
作品の継承,保存,二次資料の利用などに関わるライセンス契約を行う際に,アドバイザーとなる法律関係者。
⑩データベース,ストレージ関係
資料のデジタルデータの保存,フィルムやビデオのデジタル化などの機能を持った倉庫運営会社との連携を高めることで,寄託作品の受け入れやデジタルデータの保管代行が可能になる。
⑪各種メーカー
大手メーカーと廃盤となった機器の保管や修理についてのヒアリングを行う。OBの技術者などの講習会を開けるかなどの可能性を模索する。
このフェーズ1のあと,準備が整った機能から順に実施段階へと移行していく。フェーズ2のモデルが以下の通りである。
フェーズ1の調査機能を引き継ぎながら,修復・展示,保管,機材協力などを行っていく。この委託費と引き続き助成,公的資金などをベースに組織運営を行う。仕事が増え,経済的状況がよくなればより機能を拡張していくことが出来るようになる。またこの組織体制には,プロダクション機能があるため,よりコミッションワークや芸術祭のサポートなども行える可能性もある。また,アジア地域においても今後,こうした組織が求められているため,海外の美術館との連携可能性も高い。従って,マネタイズしていく可能性は十分にある。しかし,作品の保存・管理に携わる業務を主としていることからすれば,最低限の組織維持に公的資金を割くことを求めざるを得ない。しかし,既存の枠組みからこぼれ落ちている部分を補う組織があることで,美術館やアーティスト,海外研究機関などが取り組んでいる状況やそれぞれが抱える問題,新たな解決策といったものが見えてくるのではないだろうか。セクト化が進むと業界全体を俯瞰しづらくなる。しかし,間を取り持つように全体を補完することは新しい視点を導入することであり,今後,更なるネットワークを生み出す可能性も持っているのではなかろうか。