講師 井関悠氏によるレポート「キュレーター招聘:プレゼンテーション & ポートフォリオレビュー」

2020年2月10日(月)・11日(火・祝)の作品展期間中,在学生・卒業生・修了生を対象とする芸術活動支援企画「キュレーター招聘:プレゼンテーション & ポートフォリオレビュー」実施しました。本企画の講師として,水戸芸術館現代美術センター学芸員の井関悠氏をお招きし,事前にエントリーした在学生による作品展出展作品や,在学生・卒業生・修了生のポートフォリオについて講評をいただくとともに,参加者と講師との交流の場を設けました。同期間中,井関氏には,本企画参加者以外の作品展出展作品の鑑賞もしていただきました。
企画終了後,井関氏に本企画と作品展のレポートを執筆いただきましたので,以下に掲載します。

【企画概要】
「キュレーター招聘:ポートフォリオレビュー&プレゼンテーション」
日程 2020年2月10日(月)・11日(火)
場所 京都市立芸術大学作品展 学内展示会場
参加者数
プレゼンテーション:10名(学部生1名,大学院生9名)
ポートフォリオレビュー:12名(大学院生6名,修了生6名)

http://www.kcua.ac.jp/career/?p=6661

 

【井関悠氏 レポート】

2020年2月8日から11日にかけ開催された2019年度京都市立芸術大学作品展会期中,10日と11日の2日間にわたり同展の講評及び在学生・卒業生・修了生のポートフォリオレビューを担当させていただいた。
同展では他学の卒業・修了制作展とは異なり,美術学部の1回生から4回生まで,及び大学院美術研究科修士課程の1・2回生,更に博士課程有志による作品が展示される。一学年当たりの学生数は学部135名,修士課程60名程度と,他学に比べれば少なく見えるが,全在学生が参加するため,学部は540名,修士は120名と見応え十分であり,講評・ポートフォリオレビューを行うと2日間では時間が足りないと感じるほどであった。
京都市美術館改装に伴い,昨年,今年と同大キャンパス内及び,2023年度に新キャンパスのオープンを予定している崇仁地区にある元崇仁小学校を中心としたエリアの2会場での展示であったが,今回の講評は同大キャンパス内の展示のみであり,もう一方の会場が未見となったことは心残りである。

学生にとって常にこの作品展を前提に一年間のカリキュラムをこなしていくことになるのであろう。1回生のうちから展示を経験していくことで,学生のうちに最低でも4回の展示機会が与えられる。自主的に展覧会を企画する,又は美術館やギャラリーなどで展示する機会を得ることは難しく,一方で作品をつくるということに意識が向きがちである学生にとって,同展は作品をどのように展示するか,鑑賞者へいかに作品を伝えるかということについて考え,実践する場となっていると感じた。今回においては美術館の展示室ではなく,学生たちが慣れ親しんだ校舎が会場となっているため,制作の場=展示空間とうまく切り替えることができない学生もいたと思うが,それでも場の条件を活かそうという努力が見える作品や,この場でしか成立しないパフォーマティブな作品を観ることができ幸いであった。
講評においても,良い意味で教員の影響から離れ,自己の表現に向き合い制作している学生が多いように感じたが,同学において学生たちが主題を自ら見つけ出す能動性が求められる教育がなされてきたからなのだろう。自身の作品におけるモチーフ,コンセプトや技法を自身の言葉で説明できる学生が多かったことも特筆すべきことである。これはアーティストを志す学生にたいし,経験を積み研鑽に励む場を提供する,非常に優れた教育システムとして機能していると感じたことでもある。一方では,本展に向けて始めたばかりのモチーフ,コンセプト,技法により卒業・修了制作としている学生もおり,まだ粗削りな作品も散見された。同展を卒業制作として終わらせてしまうのではなく,アーティストとしてのキャリアの通過点として,これからも自己の表現と向き合い,研鑽を重ねていってほしいと切に願う。

2日間のうち講評は10件,ポートフォリオレビューは12件となった。先にも述べたが,ポートフォリオレビューについては対象に卒業生・修了生を含む。講評・ポートフォリオレビュー各々の間に構内を巡り,講評対象外の展示も実見する時間を用意いただいたこともあって,展示している学生数名と話をする機会も得ることができた。もう一点,ポートフォリオレビューを加えたのは今年度からのようであるが,対象に卒業生・修了生を含めたことを大きく評価したい。同大キャリアデザインセンターでは「在学生だけではなく卒業生・修了生を含めて,就職に関する相談及び芸術活動の継続的かつ体系的な支援を行って」いる。レビューを受けることで卒業生・修了生へもキュレーターとのつながりをつくる機会をもたらす。またポートフォリオの制作は,自身の活動を振り返り,作品を他者に説明するためのロジックの組立てを促すものとなる。いずれにとってもアーティストとして活動していくうえで有意義な経験である。また,他者との対話の中から新たな視点や解釈,隣接する知識などが得られることもある。このような機会を是非とも積極的に活用してほしいと思う。

最後に,僭越ながらこのテキストを読んでくださった京都市立芸術大学在学生,卒業生・修了生の皆さんへ。展覧会はアーティストとキュレーターの蓄積されたノウハウが込められた空間だ。そこは作品の順序や配置,照明,キャプション,機材類の設置方法など,様々な工夫やテクニックの実践の場でもある。展覧会においては作品を鑑賞するだけでなく,そういったことへも是非目を向けてみてほしい。いつか自身の制作や展示に役立つリソースがそこにあるだろう。だからこそ積極的に美術館やギャラリーに足を運んでほしい。

【講師紹介】
井関悠(水戸芸術館現代美術センター学芸員)
秋吉台国際芸術村企画課,横浜トリエンナーレ2005アシスタントキュレーター,資生堂ギャラリー学芸員,ヨコハマトリエンナーレ2014コーディネーターを経て,2014年12月から現職。2018年ベネチアビエンナーレ国際建築展日本館共同キュレーターを務める。主な企画に「内藤礼―明るい地上には あなたの姿が見える」「大竹伸朗 ビル景 1978-2019」など。