キャリアデザインセンターでは、2015年から、京都市立芸術大学作品展の会期に合わせ、「リサーチャー招聘プロジェクト」を行っています。
《招聘者のレポートvol.3》
森 晃子/編集者(美術手帖)
京都市立芸術大学キャリアデザインセンターのプログラムに参加し、京都市美術館や大学での作品展や卒業生による企画展、スタジオを訪問しました。
初日は、京都市美術館での作品展や京都市立芸術大学の展示を中心に、2日目は京都市内の個人、または複数人でシェアしている卒業生のスタジオを訪問し、プレゼンテーションをじっくりと聞きながら、作品を拝見することができました。
美術手帖では2016年12月号にて「あなたの知らないニューカマーアーティスト100」特集を行いました。日本人作家、もしくは日本を拠点に活動する作家から若手アーティスト100組を紹介する内容で、美大生を取り巻く現状(そもそもの美大入学志願者の減少やシーンの停滞もあげられますが、制作を続けることがむずかしくなっている一因として、生業としてのアーティストにリアリティーを持てないことや、周囲からの就職へのプレッシャーがあること、ギャラリー、メディアが若い人を取り上げる機会が減っていることなど)と向き合い、彼らのアーティスト活動を後押しするようなものを、との思いでつくりました。
そういった特集を経て、今回のプログラムでは、京都の若手アーティストによる作品展をはじめ、制作の現場や作品プレゼンテーション、大学とアーティストを中心としたネットワークや取り組みについて知ることができた大変貴重な機会となりました。
とくにスタジオ訪問では、個人のスタジオから数名で利用している共同スタジオまで、作品も鉛筆画から絵画、木工の彫刻からパフォーマンスまで、さまざまな規模感と特徴をもったアーティストの活動を拝見しました。京都という、手頃なスペースが多くある立地を生かしながら、それぞれのペース、スタイルにあった活動が共存しており、制作の場としての活気がありました。また、在校生、卒業生、大学、そして発表の場としてのギャラリー@KCUAとをゆるやかにつなぐネットワークが構築されており、アーティストとしての活動を続けるうえでのサポート体制も充実しており、意欲あるアーティストは、機会をつくっていけるのではないかと思いました。
たとえば関東地域では、4つの美術系大学がある神奈川県相模原市周辺で、卒業生を中心に、倉庫や廃工場、空き家を改築したスタジオを構え、作品制作を行っています。毎年秋には、スタジオを公開するプロジェクト「SUPER OPEN STUDIO」を開催し、期間中には、点在するアトリエを訪問するバスツアーやシンポジウム、イベントを企画しています。2015年からはアーティストによる運営団体が主体となり、相模原という場をハブとして、アーティスト同士、そして地域とのゆるやかなネットワークを構築しています。
京都市でも「Studio Exhivisit 2015 12スタジオと12の展覧会」が開催されていたことを資料で拝見しました。このようなアーティスト同士のネットワークの構築や取り組みによって、発表の場をつくっていくとともに、京都外からも集客を行い、さらなる機会をつくっていくことができるのではないでしょうか。日本のアート関係者をはじめ、海外のアーティストやキュレーターが多く立ち寄る京都ならではの立地を生かし、国際展などとの連動や、複数の展覧会を連動させることなどから、京都市のアーティストのハブを生かすような取り組みが行われていくことに期待したいと思います。
森 晃子/編集者(美術手帖) 慶応義塾大学文学部哲学科美学美術史専攻卒業。 ギャラリー勤務を経て2011年より現職。 最近担当した特集に「ZEN」「コンテンポラリー・アート・プラクティス」 「ファッションの現在地」など。