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瓦版web:06|佐々木一真&可児麗子|森の詩~オカリナの世界を広げる開拓者

オカリナ&マリンバ デュオ「森の詩」
2010年12月オカリナ奏者佐々木一真とマリンバ奏者可児麗子によって結成。土から生み出されるオカリナのやわらかな音と、木から生み出されるマリンバの包み込むような音。この2つの楽器が奏でる、この組み合わせでしか出せない「響き」を活かし、様々なジャンルの楽曲を独自のアレンジで演奏している。2013年7月1stアルバム「小さな夢の歌 Little Dream Songs」、2019年10月2ndアルバム「音の絵 Musical Paintings」をリリース。2013年・2019年南大阪オカリナフェスタゲスト出演。2014年オカリナ・ワールド・フェスティバル in 倉敷にゲスト出演。2015年12月に結成5周年記念ツアーを岡山、京都、大阪で開催。2020年4月の緊急事態宣言発令後、豊中市内の自宅の防音室よりYouTubeにて生配信コンサートを毎週開催。豊中市文化芸術活動支援助成金交付事業 配信コンサート〜癒しのひと時〜をYouTubeにて公開。
公式ホームページ https://www.moriuta.com/

佐々木一真(Sasaki Kazumasa)
岡山県津山市出身。13歳よりトロンボーンを始める。明誠学院高等学校普通科特別芸術コース吹奏楽系を経て、京都市立芸術大学音楽学部音楽学科管・打楽専攻卒業。同大学大学院音楽研究科修士課程器楽専攻を修了(トロンボーン)。大学院在籍時よりオカリナでの演奏活動を始める。大学院修了後、本格的にオカリナに転向。現在はプロのオカリナ奏者として関西を中心に活動している。2013年、2015年にイタリア・ブドゥリオの国際オカリナフェスティバルに参加、現地で演奏を行う。第1回 日本オカリナコンクール 独奏部門 一般の部 1位。2018年明誠学院高等学校吹奏楽部定期演奏会にソリストとして同高校吹奏楽部と共演。編曲者として2021年に「30のヴォカリーズ」、2022年に「60のソルフェージュ」を出版。オカリナセブン メンバー。

可児麗子(Kani Reiko)
兵庫県神戸市出身。8歳よりマリンバ、14歳より打楽器を始める。神戸山手女子高等学校音楽科を経て、京都市立芸術大学音楽学部音楽学科管・打楽専攻卒業。同大学大学院音楽研究科修士課程器楽専攻を修了(打楽器)。同大学卒業演奏会、打楽器新人演奏会、アゼリア推薦新人演奏会等に出演。第17回宮日音楽コンクール打楽器部門最優秀賞受賞。第18回KOBE国際音楽コンクール打楽器C部門奨励賞受賞。第16回"長江杯"国際音楽コンクールアンサンブル部門入賞。第3回アルジェントコンサートにおいてジョイントリサイタルを開催。第12回安倍圭子国際マリンバアカデミーに参加。オーディション合格者によるプレミアムコンサートに出演。ルネス・ミュージックインキュベーション合格、ルネスホール(岡山市)の助成を受けて2022年5月に同ホールにてマリンバデュオコンサートを開催。菊水福祉会菊水幼保こども園打楽器講師。マリンバデュオTIERRAメンバー。

インタビュー:柳楽正人(京都市立芸術大学キャリアデザインセンター音楽アドバイザー)


■色々なご縁で広がった仕事(可児)

―まず可児さんからお伺いしたいんですが、大学卒業後の活動はどんなイメージをされていましたか?

可児:私の世代の打楽器専攻はオーケストラ志望の人がたくさんいたんですが、自分はオーケストラは大好きだけどオケマンじゃないなと思っていました。でもソリストというタイプでもなくて、アンサンブルが一番好きでした。元々人と一緒に演奏するのが好きだったので、打楽器とのアンサンブルにこだわらず、色々やりたいというのが結構あったんです。

―オーケストラのような団体に所属するわけじゃないとしたら、プロとしてはなかなか大変な道を選ぶことになりますよね。

可児:そこは気合と根性で何とかしようと思いました(笑)。卒業したての頃は色んな人とアンサンブルをしまくりました。ただ私の世代の京芸の打楽器専攻はマリンバを専攻している人が少なかったので、他大学の人を捕まえて色々な編成で演奏をしました。だから今でもその人たちと一緒に仕事をしたりすることが多いかな。とりあえずやれそうなこと何でもやってみよう、来てほしいと言ってもらえるんだったら何でも引き受けようと思っていました。タイミングがよかったと思うんですよ。自分から売り込む前に先に声をかけてもらうことが結構多かったので。最初のご縁からどんどん広がっていきました。他大学の人と一緒にやっていたのが大きかったかもしれません。

―京芸だけに限らない人脈やネットワークができていたんですね。現在はどんな感じで活動されてるんですか?

可児:常設のアンサンブルとして組んでいるのは佐々木さんとの森の詩と、マリンバのデュオです。その他は単発の演奏依頼になりますが、色んな楽器とアンサンブルをしたりしてます。あとは、こども園の鼓隊で打楽器を教えています。そこは音楽に力を入れていて、0才からリトミック、2才から打楽器、3才からギターをやるんです。小さい頃から何となく耳で聞いているというのもあって、みんなよくできるんですよ。その他でよく行っているのは、「おとさぽ」という障がい児者を対象とした音楽教育事業です。京芸にも非常勤で来ておられた、滋賀大学教育学部の教授の林睦先生が「おとさぽ」のセンター長をされていて、その事業として支援学校にワークショップに行って、障がいがある子と一緒に即興で演奏したり音楽を作ったりしています。

―林先生とはどういう繋がりがあって声がかかるようになったんですか?

可児:実は林先生は、私が高校の時(神戸山手女子高校音楽科)の西洋音楽史の先生なんです。そして大学2回生の時に、滋賀大の院生の方が「音楽の授業に演奏家に入ってもらったらどうなるのか」という論文研究をされていて、その研究に打楽器奏者として呼ばれた時に先生と再会しました。そこから卒業してからもお付き合いがあり、先生や先生のお知り合いの先生などとコラボをさせていただいたりしています。

―高校時代の縁がまた繋がったということなんですね。こども園の方はどういう経緯で始めることになったんですか?

可児:卒業してすぐぐらいの時に、年の離れた先輩から声をかけていただいて、ポップスのピアノの方と他の楽器が何人かの4~5人のアンサンブルでの本番に参加させてもらったことがありました。そのポップスのピアノの方のところに編曲を習いに来られていたのが、こども園の副園長先生だったんです。そこで副園長先生が、こども園で打楽器の指導ができる人を探していると言われた時に、私に声をかけてくださったんです。ポップスのピアノの方とはその1回きりのお仕事だったんですけど。こども園にはもう12~3年行かせてもらっています。2才で初めて見た子が、今は小学6年生になってたりしてびっくりします(笑)。

―お仕事で1回だけ一緒だった人からの紹介というのはすごいですね。どれも元々のご縁から広がっていったお仕事なんですね。


■口を故障してオカリナに転向(佐々木)

―佐々木さんにも最初は同じ質問をさせていただきますが、卒業後はどういうイメージでしたか?トロンボーン奏者としてオーケストラでバリバリやるぞっていう感じだったんでしょうか?

佐々木:明確なビジョンがあったわけではなかったんです。僕は岡山県の出身なので、卒業後の自分の居場所があんまりないなと思っていて、学部生の時点では演奏の仕事なんてほとんどなかったから、とりあえず大学院に進んでその間に何かできることを探そうと思っていました。大学院に行くと少しずつ演奏の仕事をいただけるようになったんですけど、当時の大学院は演奏会の準備とかを結構しなくちゃいけなくて、それで手一杯になっていました。でも演奏もしないといけないから、無理して吹いているうちに顎を壊しちゃったんです。2年生の時に閉口筋という筋肉が2本とも炎症を起こしてしまって、口が痛くてマウスピースが当てられなくなってしまいました。それから結局半年ぐらい病院通いをしていました。ただ、口を痛める以前にいただいていた演奏の依頼は断るに断れなくて、痛いけど吹いてしまっていたのがよりダメージになっていたと思います。今考えたらあの時に吹くのをやめておいたら、トロンボーン奏者としての可能性は残ったかなという気もしなくはないですけど。でも当時は演奏の仕事が来はじめた直後ぐらいだったので、来ていた依頼はこなしたいと思っていました。
 大学院でトロンボーンが吹けないとなると、やることがなくなるんですよ。これが学部生だったらまだ授業があったりとかがあったかもしれないですけど、大学院は授業もそれほど多くないし、僕は研究ではなくて演奏で行く予定だったので、論文も書いてなかったんです。本当にやることがなくなっちゃって、でも何かやりたいし、やらないと不安だし、やっぱり楽器が吹きたいなと思ったんです。だけど楽器を口に当てることもできないので、顎を使わずに吹ける楽器はないかと考えて思いついたのが、リコーダーとオカリナでした。今考えるともっとたくさんあるんですけど、その当時はそれしか思いつかなかった。リコーダーは学生の頃に授業でやってるからオカリナをやってみようと思って、思いついたその日に楽器店でオカリナを買ってきて、そこから1日6時間とか練習していました。トロンボーンが演奏できない中での現実逃避みたいな感じですが、それを数ヶ月、毎日やってたんです。

―その時はオカリナで何を吹いてたんですか?

佐々木:ポップスとかですね。名曲集みたいな楽譜を売っていたので、その曲集をひたすら吹いていました。とりあえず音はすぐ並ぶようになるので、どうせ今やることもないし、せっかくだからオカリナを習いに行こうと思ったんです。その当時はオカリナ奏者という人がいるのかどうかも知らなかったんですけど、インターネットもだいぶ普及している頃だったんで、ネットで人を探して習いに行きました。そうしたら「芸大の大学院に行ってるやつがオカリナ業界にレッスンに来た!」っていう話になったらしく、一応一回レッスンに行ったんですけど、次はプロでアンサンブルをやっている人たちのところに見学に行かないかと言われたんです。おそらく向こうも何とかして引き込みたかったんでしょうね。それでよくわからないままアンサンブルの見学に行き、ちょっとこの楽器吹いてみなよ、その楽器貸してあげるよ、今度一緒に練習に参加しなよって、いつの間にか巻き込まれちゃって、気づいたらメンバーになってたんです(笑)。だからいつから入団したのかもわかってないんですけど、演奏活動をしている団体に突然ポンって放り込まれた状態になったんですよね。そこからしばらくメンバーと一緒に演奏していたんですけど、みんなレッスンを頼まれたけど行けないやつとか結構持ってるんですよ。「ここに来て教えてもらえませんか」って言われるんですけど、みんな手一杯で行けない。それで「代わりに行ってよ」みたいなやつをポンポンともらっちゃって、そこからレッスンをしに行きはじめちゃってたんです。

―展開が早いですね(笑)。それはオカリナを吹き始めてどれぐらいの期間ですか?

佐々木:半年ぐらいかな。トロンボーンの方は、ようやく口に当てられるようになってきたとかそういう時期だった気がします。

―最初にオカリナを習いに行った時に、既にそこそこ吹けてるなと思われたんでしょうね。

佐々木:どうだったんだろう。それは聞いたことがないのでわからないですが、まだ20代でしたし、鍛えればすぐ吹けるようになると思われたのかもしれないですね。

―オカリナ業界にいきなり現役芸大生が乗り込んできたという“事件”を、すんなり受け入れられない空気もあるのかなと思ってましたけど、そうでもなかったんですね。

佐々木:数少ない若手が来た!という感じだったのかもしれないですね。ポンポンとレッスンの話があった時は、もうトロンボーンは吹けるようになってきてたんですけど、口を痛めた後に無理して吹いていた時の恐怖感とか色んなものが残っていて、あんまり上手く演奏できなくてどうしようかと揺れていたタイミングでした。オカリナは思っているほどまだ発展してない新しい楽器で、やっている人がまだ多くないから、恐怖感や辛い思いが残っている楽器を続けるよりは、オカリナでやっていくのも面白そうだなと思ったんですよね。僕を必要としてもくれていたので。それにオカリナって何となくトロンボーンと似てるなって思ったんです。大雑把な楽器なんですよ。たとえば息の強さでいくらでも音程が変わっちゃったりする。そんな大雑把なところがトロンボーンと似ていて、共通点もあって面白いなって。でも両方できるほど器用じゃないからどっちかを選ぼうと思ってオカリナを選んだんです。

―それは大学院を出られてからですか?

佐々木:大学院3回生の時ですね。2年では修了できなかったので。

―在学中に大きな決断をされたんですね。


■クラシック界から見たオカリナ業界

―可児さんは、佐々木さんと結婚される前から大きな決断をされた時期も見ておられたと思うんですが、オカリナの練習に付き合ったりとかはしてたんですか?伴奏してあげたりとか。

可児:最初はずっと伴奏なしで練習していて、そのうち合唱曲の『ビリーブ』の楽譜とかを持ってきて「ちょっとマリンバで伴奏を弾いてくれない?」って言われて、初見でがんばって弾くみたいなことをしていました。佐々木さんが1日6時間ひたすらオカリナの練習していた時に印象に残ってることがあるんですけど、ある時期ずっとビブラートをかける練習をしていたんです。それで録音を聞かせてもらって「このビブラートの幅、どう思う?」とか聞かれたりしました。

佐々木:トロンボーンとオカリナは、ビブラートのかけ方が違うんですよ。僕がトロンボーンでかけていたのと同じ吹き方をすると全くかからないので、これはどうしたものかと思ってひたすら練習していました。

―1日6時間の練習を何ヶ月も続けられたり、ビブラートのかけ方をひたすら研究したり、佐々木さんはひとつのことをとことん追及したいタイプなんでしょうか?

可児:端から見ていると割とそうです。だって防音室を手作りで作るんですよ(笑)

―ああ、そうでした!ご自宅の防音室は、佐々木さんがいちから手作りされたんですよね。でもビブラートを研究していた時点では、オカリナに転向しようと思ってたわけじゃないんですよね?

佐々木:全然ないですね。オカリナを続ける気があったかどうかもわからないです。ただただ、吹いてみようっていう感じだったので。シンプルに現実逃避をしたかったというのもあると思うんですけどね。

―最初はオカリナの名曲集を吹いていたということですが、そもそもオカリナの楽譜というのは結構あるものなんですか?

佐々木:今でこそ結構オカリナの楽譜が出ているんですけど、当時は楽器屋さんに行っても少ししかなくて、選べるのが童謡とか演歌とかジブリの曲集ぐらいだったんです。今はすごく増えていて、オカリナコーナーの幅が当時の10倍ぐらいになっているお店も結構あるんです。でも始めた時は何を練習したらいいかわからないぐらい楽譜が売ってないわけですよ。だからレッスンには『ビリーブ』とか歌の曲とかを持って行かないと、楽譜がないというのが当時の状況でした。
 僕は今、オカリナ用のエチュード(練習曲)の楽譜を自分で作っているんですけど、当時のオカリナ業界は「エチュードって何?」みたいな感じでした。今はクラシック曲を演奏する方も多いですけど、僕がクラシック曲を吹くと「あなた、どうしたの?」みたいな空気すらあるぐらいの状況だったんです。楽譜の出版社の人とお話をしていると「エチュードはアマチュアに売れないから出さないです。できるだけ簡単な楽譜にCD伴奏をつけるのが一番売れるんですよ」という話をされるんです。それでコロナ禍に入って仕事がなくなった時に、どうせ時間があるなら自分でエチュードの楽譜を作ろうと思いました。声楽用のエチュードの楽譜を探してきて、オカリナで使えそうなやつを色々と試して編曲して2種類出しました。今はもともとクラシックをやっていた人がオカリナを始めるというケースがだいぶ増えていて、僕が作ったエチュードを使ってくれている方も結構おられるみたいです。

―佐々木さんの作った楽譜が、オカリナ界の次の世代を作り始めているんですね。

佐々木:それでもやっぱりアマチュアの人が多い楽器なので、どうしてもCDの伴奏をバックに演奏会をやることが普通にまかり通っちゃう業界なんです。コンサートホールで本番をする時に伴奏がCDというのは、クラシックだとあり得ないじゃないですか。最近はそれを何とかしようとみんなでがんばって、少しでも楽器としてのレベルを上げたいなと思っているんです。別にそれが悪いとは思わないんですよ?カラオケ大会をやっている人たちは全然いいんですけど、それとは別にプロとして仕事でやっていますという人がそうしちゃっているので、それはダメでしょってどうしても思うので。

―もしかしたらジャンルの違いもあるかもしれませんね。ポップスだとカラオケ音源で演奏することは普通にあると思いますし。いいか悪いかというよりも、オカリナ業界をより芸術的な領域に拡張したいという人が現れたということなんでしょうね。それは業界としてはいいことですよね。

佐々木:オカリナを始めて割と早い段階で、イベントに来ませんかと言われて行ったことがあるんですけど、CDで伴奏を流しながら10人ぐらいで一緒に同じメロディーを吹いているみたいなのが多かったんです。今は比率が変わってきて、アンサンブルをする人たちが増えつつあるので、楽器としての立ち位置が少し上がってるんだろうな、少しずつ熟しつつはあるのかなという気がしています。だから大手の出版社が出さないようなエチュードを作ったり、CD伴奏がついていない楽譜を出版したりして、そういう楽譜もあるんだよというのを僕らはやった方がいいのかなと思っているんです。演奏をする上でCD伴奏のメリットもなくはないですけど、デメリットって相当大きいんです。特にクラシック曲を演奏するのはデメリットを通り越してタブーに近いラインなので。

―クラシック曲という話であれば、CD音源で演奏することは確かに悩ましい問題ですね。それならいっそのことポップス調にアレンジしてほしいって思いますもんね。

佐々木:そうそう、それだったら全然何も思わないんです。だけどクラシックの曲をやりたいんだったら人間同士でやろうよってやっぱり思うんです。そのためにはピアノ伴奏の楽譜がないとできないじゃないですか。でもそれをやる人が少ないから、出版社は楽譜を出してくれないわけですよ。ピアノ伴奏がついてないCD付きの楽譜を売っちゃう。買う人はそれしか売ってないから、結局CD伴奏で演奏するしかないんですよ。そういう負のループがあるんです。だけど儲からないから出さないと言われたらどうにもできないので、最近はCD伴奏がついていない楽譜を自分で作って販売しています。

―もしかすると、クラシック業界の中でも特にこだわりが強い人がオカリナ界に来ちゃったのかもしれないですね(笑)

可児:私もそう思います(笑)

―それを好意的に受け取ってくれているオカリナ業界もいいですね。

佐々木:ありがたいです。

―佐々木さんは日本のオカリナ界の開拓をしてるんですね。

佐々木:なったらいいなと思ってます。どれぐらいなってるかわからないですけど。

―でも確実に風は吹いてるんじゃないですか?

佐々木:多分、誰かがやると「私もやってもいいんだ」って思う人もいると思うんです。思っていたけどやらなかったという人たちもいるので。エチュードの楽譜が欲しいと思っていた人も、誰かが出し始めると出しやすくなる。みんなからいらないって言われたら作りにくいじゃないですか。誰かががんばらないとその状況って変わらないと思うんです。

―普通はそう思ってる人がいたとしても「誰か!やってください!」って言うだけで終わると思うんです。自分がその“誰か”になろうと思うのはものすごくエネルギーがいるし、すごいことですよ。

佐々木:どれくらい役に立っているのかはわからないですけどね。最近は色んな考え方をみんなで共有しようと思っていて、3ヶ月に1回ずつのペースでオンラインセミナーを主催しています。もっと横の繋がりがあるといいなと思って、もうひとりプロの人と一緒にやっていて、色んなところからオカリナ奏者や専門家の人に出ていてだいてしゃべってもらっています。

―それはどんな人たちが見に来られるんですか?

佐々木:アマチュアの人もいれば、オカリナ講師や奏者の人もいて、オンラインで百数十人ぐらい参加している時もあります。

―え、すごいですね!

佐々木:オカリナ界は思ってるより大きいんです。地方に住んでいる人たちは、東京の奏者の話とかを聞く機会はなかなかないじゃないですか。逆に東京の人たちでも、大阪まで来てレッスンを受けようという気概のある人はそうそういないので、お互いにメリットがあるよねという話をしているんです。

―佐々木さんのそのモチベーションはどこから来るんですか?

佐々木:この楽器の底のレベルを上げたい、楽器としてのランクを上げたいと思っているんです。たとえば仕事で演奏に行っても「オカリナ奏者をやっています」と言ったら「オカリナなんか演奏してるんですか?」みたいに鼻で笑われるような経験があるんです。大体演奏が終わると「想像してたのと違いました!」と言われるんですけど。そういうポジションであることは間違いない。楽器を売っている方も、簡単に吹けますというのを売り文句にして売っているところがあるから、どうしてもポジションとしてはおもちゃ感が強い。だからもうちょっと価値を上げたいなと思ってやってるんです。


■森の詩としての活動

―佐々木さんがオカリナを始めた頃の話に戻るんですけど、最初にオカリナを買ってから、2本目を手にするのはいつぐらいでしたか?

佐々木:割とすぐでした。1本目とは音域が違う楽器を買ってきました。

可児:その2本で最初に2人で本番をしたんです。

佐々木:当時は1曲の中で持ち替えをしてまでは吹けなかったので、曲によって2本のどちらかで演奏するという程度でした。今では鬼のような持ち替えをさせられたりするんです。最初の頃は持ち替えるために4小節は休みを取ってくれていたんですけど、それが段々2小節ぐらいに短くなって、ひどくなると1小節を切り始めるんです。「2拍で持ち替えられる?」「いや無理でしょ!」みたいな(笑)

可児:「無理かなぁ、何とか持ち替えて欲しいなあ」って(笑)

―森の詩では可児さんが編曲担当なんですか?

可児:2人とも編曲します。

―佐々木さんが編曲する時は、マリンバにはあんまり無茶はしないですか?

可児:いえいえ、そんなことはないですよ!マリンバのオリジナル曲よりうちの編曲の方が難しいです(笑)

―じゃあお互い様みたいなところはあるんですね(笑)

可児:お互いに、編曲してみたい曲のジャンルが全然違うので面白いんですよ。佐々木さんは歌い込むとすごく綺麗な、メロディーが美しい曲。それとメドレーの編曲が上手なので、メドレーは佐々木さん担当みたいになっています。私はあんまり自覚がないんですけど、佐々木さん曰く、リズム感が強い曲を持ってくることが多いみたいです。

佐々木:僕はもともとトロンボーン奏者だったので、細かくてパラパラした曲を演奏することはなかったですからね。だからいかに綺麗に歌い込むか。

―それぞれのバックボーンが違うから、ユニットとしての広がりが出ますよね。

佐々木:うちは割とクラシックの曲を取り上げる率が高くて、オカリナをやっている人の中ではかなり高いんです。最初のうちはアンケートで「現代曲が難しくてわからない」「知らない曲なんかやるな」みたいなコメントが結構あったんですけど、段々とお客さんも慣れてくるのか、最近はむしろ現代曲をやった時の方がアンケートの内容がよかったりするようになってきました。逆に有名な曲ばっかりやりすぎると若干渋いというか、変わった曲をやってほしそうなアンケートがくるんです(笑)

可児:委嘱作品の新曲とかもやるんですけど、最近はそれがよかったですとか、こんなイメージが浮かびましたとか言っていただくんです。

―おふたりの活動が、オカリナの楽しみ方を広げることにも貢献しているんですね。森の詩としてのコンサートは定期的にされてるんですか?

佐々木:最近は岡山と大阪でやるというパターンが多いですけど、年に一度やっています。

可児 :コロナが落ち着いたらツアーをしたいんです。

佐々木:2020年の結成10周年の時にツアーをする予定だったんです。それを目指して2019年に各地を廻れる準備をしようって言ってたんですけど、コロナでそれどころじゃなくなりました。関東から九州ぐらいまで、これまで2人で行かせてもらったところを廻りたいね、CDアルバムを作って10周年ツアーしようって言ってたのに、全部なくなってしまって今に至ります。あの時にもし動いていたらもうちょっと色んなところに行こうという空気はあったかもしれないですけど、今は声をかけていただいたところに行くという感じになっています。

―そうだったんですね。森の詩はコロナが流行して以降も、自宅からのYouTubeライブやホールでの配信コンサートなど、活動を絶やさず続けておられたという印象を持っています。ようやく以前の日常が戻ってきそうですし、おふたりの演奏を全国の人たちに届けられることを楽しみにしています。今日はありがとうございました。


オカリナ&マリンバ デュオ「森の詩」 CONCERT 2023

日時 : 2023年6月11日(日) 14:00開演 (13:30開場)
​場所:豊中市立文化芸術センター
曲目
N.リムスキー=コルサコフ 交響組曲「シェエラザード」より
佐々木一真編曲 日本の四季メドレー

チケット 
一般 3,000円 全席自由席 (当日500円増)         

チケットは森の詩Online Shopから購入できます。

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