KAWARABAN瓦版

瓦版web:05-後編|toyono gallery vitokuras(亀谷彩)|職住一体のギャラリー

亀谷彩
1971年、島根県 出雲に生まれる。
1997年、京都市立芸術大学 大学院美術研究科漆工 修了。
2002年、朝日現代クラフト展・準グランプリ受賞。2012年「漆・うるわしの饗宴」展(京都市立芸術大学 ギャラリー@KCUA、喜多方市美術館、山脇ギャラリー)。2015年「KAWAII : craftingthe Japanese culture of cute」展、(英国、James Hockey & Foyer Galleries,  UCA Farnham  RUGBY ART GALLERY & MUSEUM)。2016年 個展「うみつちひとそら」展(出雲文化伝承館)。2018年 個展「みなそこのみや」展(京都、ギャラリーマロニエ)。他、展覧会多数。
祭祀の道具がハレの場を立ち上げる、物理的用途のない道具の力に魅力を感じ、「ハレノグ」(ハレの道具)と題してオブジェをつくる。近年は物語を取り込み「モノ語り」と称し、作品を物語のなかで動かして見せる動的な表現も試みている。
2009年より大阪天満にて、うるしの教室「漆甲舎」を主宰する。 今年より toyono gallery vitokuras の運営にも関わる。
https://www.facebook.com/shikkousya


2022年7月1日に、豊能町という場所にギャラリーを移転オープンされた片山和彦さん。 柿落とし展として、片山さんの配偶者であり漆作家である亀谷彩さんの個展を開催されている中、取材を行いました。 お二人は生活と制作と仕事、そしてギャラリーという、4つの立場を、どのように過ごされているのでしょうか。 当日は会場が非常に混み合っており、常にお二人のうちどちらかがお客様の対応をされていたため、別々にお話を伺いました。前編後編に分けてご覧ください。

インタビュー:松井沙都子(京都市立芸術大学キャリアデザインセンター美術アドバイザー)


toyono gallery vitokuras で開催された個展「ふんだりけの塔」展示風景。

■アップデートを重ねるという作品制作

―亀谷さんの今回の個展は、どのようなタイミングで実施されたものでしょうか。

亀谷彩さん(以下、亀谷):大学を出てから20年くらい、年に1回は個展の機会をいただいて、作品を作ってきたのですが、コロナ禍に入って以来2年くらい、久しぶりに展示の機会がない期間を経て、開催している個展です。

―卒業してから続けて年1回の個展をずっと続けているというのは素晴らしいご実績です!

亀谷:ありがとうございます。自分でアピールするのは苦手な方なので、縁があって自然な流れで、いろんなところでさせてもらっています。

—今回の展覧会の内容、位置付けについて教えてください。

亀谷:展示のタイトルは、「ふんだりけの塔」と言います。「ふんだりけの塔」で展示している塔の形をした作品は、ハレの日ための道具という設定で、「ハレノグ」という造語のタイトルをつけました。この展示に至るまでに、2019年に一度、wks.で、同じく「ふんだりけの塔」というタイトルで作品の展示をしたことがあります。私としてはその時に、制作に時間をかけきれなかったりしてやり残した感覚があって、いつか作り直してまた発表したいなという思いがありました。それ以来、他の新しい作品も制作しながら、ゆっくり制作を続けていたのですが、ちょうど高さのある空間のvitokuras で展示する機会ができたので、以前から塔の作品を手掛けたかったというのもあり、改めて塔の形にリニューアルして発表するにしました。そしてギャラリーのお披露目と同時にその作品も展示することになりました。
もはや新作くらいの仕上がりにして展示できたので、良かったです。

展示作品《ふんだりけの塔》ディテール。



―この空間があったから、本来やりたかったことが実現できたということでしょうか。

亀谷:そうですね。でも途中で一回出した期間がないと、これほど詰めた形で、展示も作品に仕上げるということはできなかったかなと思います。トータルではずいぶん時間がかかってしまいました。

―一回の展示で仕上げるのではなくて、少しずつアップデートしていって、見せたい形に近づけていくのは学生に想像がつかないプロセスかもしれません。

亀谷:そうですね。私自身もそういう形ではあまり出すことがなかったんですが、そういうふうに出してみてもいいのかなと思うようになりました。一旦完成した作品でも、どんどん手を入れ直して作って、自分として納得して出すというのもいいのかなって。


■生活と制作の良い関係を探る

―ちなみに、亀谷さんは学生の頃、どんなことをされてましたか。そこからどのように今の仕事に至ったのでしょうか?

亀谷:学部の頃は実は家具を作っていました。主に塗りの技法を組み合わせた木工をしていました。でも学生時代には作れる家具が限られていて、全然作り足りなかったので、大学院修士課程に進学しました。そして修士1回生の時に初めてアートスペース虹で初個展をしたのですが、その時に言葉の表現にも興味が出てきました。詩というわけではないけれど、言葉で表現するようなことを作品でもできないかな、と考えて、作品自体に言葉を取り入れてみるとか、色々と試みていました。
私は元々工芸家だからか、人の生活にあるいろんなものに興味関心があって、今の作品の形ができてきています。作っても作っても、次はこれをやってみたいとか、あれをやってみたいという気持ちが湧いてくるので、都度それを実現しながら、今に至っています。

―亀谷さんの作品は、タイトルなど言葉が印象的です。

亀谷:昔は詩のような言葉を使って作品を作ってみることを試みていましたが、言葉を紡ぐことはとても難しくて、せいぜい作品タイトルで言葉遊びするというくらいでした。今でもそれは変わらないものの、タイトルが作品とまでは言わずとも、作品発表するときの重要な補助的な要素となるものと考えています。
これまで言葉に興味があったということが引っかかっていて、2014年に初めてwks. で既存の小説と作品を絡めて、世界観を見せてみるというのをやってみました。(「うみつちとそら」2014年)また夫も演劇に詳しかったので、夫の協力も得ながら、演じてもらう形式で作品の世界観を見せるということも試してみました。その後、出雲でもう少し大きい規模でやってみようかな、ということになり、2016年の出雲展示に至りました。

「亀谷彩漆作品展 うみつちとそら」展示風景(出雲文化伝承館、2014年)

―京都のマロニエでもご夫婦のコラボレーションによる印象的な展示がありました。

亀谷:マロニエの展示は、「みなそこのみや」(2019年)という展示で、また違う物語を設定したものです。「みなそこのみや」は、最初に倉敷の「ぎゃらりい しをり」というところで発表(2017年)し、その後wks.でも展示(2018年)をして、さらにそれを作品の規模も大きくして、マロニエで、3Fと4Fで2フロアに分けて発表したというものでした。これも最初のとっかかりの発表があって、もうちょっと手を加え直して、充実させながら発表して行っている感じですね。1回目より2回目が良くなればさらにいいし、という考え方です。

「みなそこのみや」展示風景(ギャラリーマロニエ、2017年)

—作品をアップデートしていくというプロセスを経るようになったとのことですが、最近は時間の捉え方に変化があったのでしょうか。

亀谷:はい、以前と変わってきているかもしれません。
仕事をしながら制作の時間も確保しないといけないとなると、やはり寝る時間を削るしかありません。子供が小さい頃は、子供が夜寝てから自分の制作をしていましたが、最近は老眼のため、やはり目が効かなくなってきたり、体力的な面での変化もあり、大変になってきました。さらに家族のいる生活や、仕事のモチベーションと、様々なことが複雑に絡んできて、制作だけが特別に分けられるのではなく、もっと人生の中に組み込まれるような、良い形を探したいと思うようになりました。そしてこの数年は、制作のペースや、日々の生活サイクルを、色々試しながらやってきたように思います。

―子育てしながらの制作は、本当に大変です。漆は畳の上に持って上がれるサイズ感であれば、自宅でもできるのでしょうか。

亀谷:ええそうですね。子供が小さい時は、自宅の中に一部屋制作場所を用意しておいて、寝かせてから作業するみたいな感じでした。夜泣いたらすぐ飛んで戻れるような距離だったので、制作も続けられたのかもしれません。

―漆は手間がかかるので、フルタイムの仕事に就いていると、とても制作ができないという人もいますね。

亀谷:漆は、ちょっとずつでも毎日触れる方が良いと思いますよ。ずっと詰めて作業ができる環境というのは、働いているとなかなか難しいかもしれません。

―亀谷さんのお子さんは、もうすぐ中学生になられるそうですね。お子さんの手が離れると、バリバリ制作を始める方もいらっしゃいますが、亀谷さんの場合は、逆に生活と制作が寄り添っていくような印象です。

亀谷:そうですね。模索しながら昔と違うペースの制作を進めている感じがします。またこれから家族の生活の場となっていくvitokuras は、自分の制作とちょっと別の流れにあるのですが、家族とともに作っていて、生活の中に入ってきているような気がしています。

「ふんだりけの塔」階段に展示された作品。


―片山さんのお話を伺っていて、制作と分けて仕事があるというより、仕事と人生観、ギャラリーのあり方が一致した印象がありました。亀谷さんも隣にいて、そういう変化は同じようにありましたか。

亀谷:はい。私は、一般の方を対象とする漆教室を運営していますが、そちらの方にも自分の仕事道具の漆を使っているので、日々の生活と仕事と制作が関連づいているように感じています。とても楽しく、充実しています。
以前はこういう形があるということも何にも考えていなかったんですが、続けてきた結果、今があるのかなと感じています。

―片山さんと亀谷さんは、お二人とも自然に生活と仕事を結んでいる印象です。とても相性が良く、抑圧し合わない関係なのではないでしょうか。

亀谷:(笑)結構バトルはしあうんですけどね。どっちも主張が強い方なので。
でもそれは一つ目的が共通するところでもあるからかもしれません。娘も小さい時は喧嘩を制裁するようなことを言っていたんですが、今は喧嘩じゃなくて話し合いしているんだなー、という感じで、受け入れています。(笑)

―意見交換がしっかりなされている感じがして、総じて仲が良いご夫婦な気がします。

亀谷:(笑)小さいことで言えば色々戦いがありますけどね。どっちも引かないので。

「ふんだりけの塔」壁面の展示。

■住まいと寄り添うアトリエ

―今後、アトリエをギャラリーの隣に設置すると伺いましたが、これからどうなっていく予定でしょうか。

亀谷:制作スペースをこれまでよりグレードアップできたらいいなと思っています。漆の場合、漆の塗装をする部屋が当然必要ですが、この他に素地を整形するのに木を削って木屑が出る作業をするため、木工部屋が別に必要です。今回それぞれを1箇所に用意できるのがとても嬉しいです。
以前は木工部屋として、同級生とか何人かで豊能町にプレハブ倉庫を借りて、木工機材などを置いて作業に行っていたのですが、素地にかける時間はごく一部だったので、経済的な理由からそこは引き払いました。その後は、天気の良い日に自宅の外でブルーシートを敷いて削るとか、なんとか工夫しながらやってたんですが、なかなか他の作業や生活との切り替えが大変でした。これからはようやく落ち着いてやっていけそうです。

toyono gallery vitokuras 拭き漆で仕上げられた床。


―塗装部屋と素地部屋の間には仕切りがあるのですか?

亀谷:16畳くらいの四角い部屋の半分が、漆の塗装部屋になっています。残りのスペースの半分が木工部屋で、機械を置いて扉で仕切れるようにしています。あとのスペースは作品の倉庫にしようかなと考えています。
木工部屋の横は、テラスに出るような大きい掃き出し窓になっていて、半分外に出て作業することもできる感じです。そちらも広げて使ったりしようかなと考えています。

―理想のアトリエが自宅にあるとは、大変羨ましい環境です!いつかお披露目していただけることを楽しみにしています。

亀谷:わかりました。(笑)

―是非よろしくお願いします!本日はありがとうございました。

ギャラリーにて来客対応中の亀谷さん。

toyono gallery vitokuras

2022年、GALLERY wks. の豊能町への移転を機に、名称を toying gallery vitokuras と改め開廊。vitokuras は「美と暮らす」。住居とアトリエ、ギャラリーが共にある場所、それはアートがある暮らしというよりは、もっと切実にアグレッシブに暮らしの中に美術を放つ試みです。また、ホワイトキューブで護られた作品が真価を問われる場所ともなるでしょう。2022年7月にはプレオープン、2023年4月から本格始動します。

toyono gallery vitokuras
〒563-0101 大阪府豊能町吉川210-1
tel.09039433089
katayamakazuhiko@yahoo.co.jp

https://www.facebook.com/vitokuras

〈展示予告〉

「放牧(仮)」展
高垣リミ(彫刻)x 田中智子(漆工)
キュレーション/亀谷彩
2023年4月21日(金)~5月15日(月)
火水木は休み、5月3日(水)と4日(木)はオープン
12:00~18:00

具象を追いながらも漆の廃棄物を素材に扱うなどして彫刻の枠を超えた造形に挑む高垣リミと、等身大の立像で漆工のもつ手仕事的なミクロに物語を纏った重厚なマクロを放つ田中智子。豊能町の自然に対峙しても、存在感は揺るがない二人の造形、その相乗によって野性味に溢れた世界を解き放つ試みです。

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