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馬定延氏によるレポート「キュレーター招聘:プレゼンテーションレビュー」

2023年2月11日(土)・12日(日)の作品展期間中、在学生を対象とする芸術活動支援企画「キュレーター招聘:プレゼンテーションレビュー」を実施しました。
本企画の講師として、鳥取県立博物館学芸員の赤井あずみ(あかいあずみ)氏と、映像メディア学を御専門とする関西大学准教授、国立国際美術館客員研究員の馬定延(まじょんよん)氏をお招きし、事前にエントリーした在学生による作品展出展作品及びプレゼンテーションに対して講評をいただきました。同期間中、講師のお二人には、本企画参加者以外の作品展出展作品も鑑賞していただきました。
後日、講師のお二人に本企画と作品展のレポートを執筆いただきました。
本ページでは、馬定延氏のレポートを掲載します。

赤井あずみ氏のレポートはこちら

【企画概要】
「キュレーター招聘:プレゼンテーションレビュー」
日程|2023年2月11日(土)・12日(日)
場所|
京都市京セラ美術館会場(11日)
京都芸大 学内展示会場(12日)
講師|
赤井あずみ氏(鳥取県立博物館学芸員)
馬定延氏(関西大学准教授、国立国際美術館客員研究員)
参加者数|16名

https://www.kcua.ac.jp/career/news/11676


2023年キュレーター招聘:プレゼンテーション・レビュー
馬定延

 今年は2人体制で全作品の講評を行いました。外部講師による講評会に手を挙げて参加した16人には、それぞれの専攻の垣根を越える発想や、表現技法に対する関心という共通点がありました。その中には、このプログラムに複数回参加してきた学生もいるようで、過去のレポートから、北村花さん(2022年)、立花光さんと土屋咲瑛さん(2021年)など、今年の参加者の名前を見つけることができます。こうして毎年の変化を多様な観点から検証していけるのは、通常の「卒業・修了制作展」にはない、学部から修士課程まで全学生が出品する「作品展」ならではの利点でしょう。もちろん、大学単位の展覧会には制約もあります。例えば、会場の一つである京都市京セラ美術館には、整った環境とアクセスという長所がありますが、作品の内容とはほぼ無関係に専攻別の展示室を共有しなければいけないという難しさがあります。加藤菜々子さんは、そのような展示空間の特殊性を考えて部屋を連想させるインスタレーションを制作したと話しました。それに対して、見る人の選択に委ねられた鑑賞行為を誘導した高田マルさんの作品は、天井からの光を浴びながら絵肌を露出している絵画が並んでいる展示室の一角でないと意味が半減したかもしれません。

 周知の通り、2023年秋にキャンパス移転が予定されているため、沓掛校舎での展示は今回が最後でした。はじめて沓掛校舎を訪れた私は、前任の野村仁先生の「SOLAR POWER LAB」の標識が残っている金氏徹平先生の部屋など、校舎の随所に残っている大学の歴史に心を打たれました。しかし、移転直前だからこそ許される大胆な発想や奇抜なサイト・スペシフィック性を持つ作品がそれほど多くなかった点は内心寂しく思いました。2021年の講師の中村史子さんと堤拓也さんがレポートの中で、「同時代の社会的問題に言及する作品が予想以上に少なかった」と指摘しましたが、今年度も同様の傾向が見られたことは否めません。その中で、スポーツをめぐる記憶を扱った佐俣和木さんの作品と田村久留美さんの《人の下に入る》からは、身体と映像を用いて社会に一歩踏み込もうとした姿勢が見えて良かったです。

 もう一人の講師の赤井あずみさんと特に印象に残った作品について話した時に、私が取り上げたのは日本画専攻の川原萌さんと油画専攻の小島麗美さんの作品でした。小さい水棲生物を描いてきた川原さんは安定した表現言語を持っていましたが、今回は展示の方法や筆使いの面でそれまでの作風から果敢に脱却した作品を発表しました。小島さんの作品では、インターネット検索結果から収集した実存人物の画像が、柄物の布と組み合わされつつ、増殖・分解・統合されていきます。《異常によって担保される正常》というタイトルは、短期間に仕上げられた作品そのものよりも、作者の世界認識の根底にある相対性の原理を示しているように思われました。

 1日目の終わりに京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAで、フェムケ・ヘレフラーフェンの「Corrupted Air|腐敗した空気」展を見ました。それはいろいろな意味で、直前まで見た「作品展」とは対照的な空間でした。京都駅を通じて関西全域へのアクセスが可能な新校舎では、学内外で国際的に活躍する同時代のアーティストの作品とキュレーションに日常的に接する機会がもっと増えていくでしょう。そういえば、いままで身につけてきた彫刻的思考を活用して映像インスタレーションに挑戦した伊藤真生さんは、異なる修学環境からの刺激を受けて、今後どのように作品が変化していくか期待されるひとりでした。


馬定延(ま・じょんよん)

関西大学文学部映像文化専修准教授・国立国際美術館客員研究員

東京藝術大学大学院映像研究科修了(博士・映像メディア学)。著書 『日本メディアアート史』(2014)、共編著書『SEIKO MIKAMI: 三上晴子-記録と記憶』(2019)、論文「光と音を放つ展示空間—現代美術と映像メディア」(2019)、「いくつもの声」(2022)、共訳書『Paik-Abe Correspondence』(2018)、『田中功起:リフレクティヴ・ノート(選集)』(2020-21)など。韓国『月刊美術(Wolganmisool)』東京通信員。

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