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講師 江上ゆか氏によるレポート「キュレーター招聘:プレゼンテーションレビュー」

2022年2月12日(土)・13日(日)の作品展期間中,在学生を対象とする芸術活動支援企画「キュレーター招聘:プレゼンテーションレビュー」を実施しました。
本企画の講師として,兵庫県立美術館学芸員の江上ゆか(えがみゆか)氏と,ディレクター,音楽家で,京都伝統産業ミュージアムにてチーフディレクターを務める山崎伸吾(やまさきしんご)氏をお招きし,事前にエントリーした在学生による作品展出展作品及びプレゼンテーションに対して講評をいただきました。同期間中,講師のお二人には,本企画参加者以外の作品展出展作品の鑑賞もしていただきました。
終了後,講師のお二人に本企画と作品展のレポートを執筆いただきました。
本ページでは,江上ゆか氏のレポートを掲載します。

山崎伸吾氏のレポートはこちら
https://www.kcua.ac.jp/career/news/11015

【企画概要】
「キュレーター招聘:プレゼンテーションレビュー」
日程 2022年2月12日(土)・13日(日)
場所 京都市京セラ美術館会場(12日)・京都芸大 学内展示会場(13日)
講師 江上ゆか氏(兵庫県立美術館学芸員),山崎伸吾氏(ディレクター/音楽家)
参加者数 14名

https://www.kcua.ac.jp/career/news/10723


「キュレーター招聘:プレゼンテーションレビューレポート」
江上 ゆか

 2日間にわたる2021年度のプレゼンテーションレビューのうち,筆者は日程の都合により,京都市京セラ美術館会場のみの参加となりました。学内会場との専攻の振り分けやレビュアーの経歴ゆえか,担当した5名のうち4名は絵画の出展者でした。
 トップバッターの北村花(きたむらはな)さんのカラフルな油画は,新たな方向性に取り組んだ結果,ベクトルの違う絵画空間が混在し,やや整理しきれていない面もありましたが,ポジティブなパワーを感じさせるものでした。学部3回生の段階では上手くまとめることより,こうした果敢な挑戦こそ重要でしょう。

 修了展となる院2の3名は皆,自分の課題を見すえ,どのように更新をはかるかという明確な意識をもって取り組んでいました。揺らめく浅い奥行きの画面を,あえてグリッド状に分割し,ズレを導入した油画の八木鈴佳(やぎすずか)さん。一貫して炎を題材に,定まりきることのない,だがたしかな空間で,見る者を画中へ誘おうとする日本画の木岡史(きおかふみ)さん。同じく日本画で,山という対象の圧倒的な存在感とその場を経験する体感とを同時に絵にしようという長谷川悠太(はせがわゆうた)さん。じゅうぶんに引きのある美術館での展示は,それぞれの試みを客観的に見る格好の機会となったはずです。今回の成果と新たに得た課題を踏まえての,修了後の発表活動に期待しています。
 漆工4回の橋本梨央(はしもとりお)さんの展示ケースなどを組み込んだインスタレーションは,美術館という文脈を意識した意欲作として,会場でもひときわ目をひきました。今回は言おうとすることが多岐にわたりすぎていた感は否めませんが,それだけにどの方向に向かってゆくのか,今後のブラッシュアップが楽しみです。
 台座や配置などの展示方法については,レビュー参加者以外の出展者からも質問を受け,みなさんの関心の高さがうかがわれました。だからこそ改めて記しておきたいのは,展示もまた技術のひとつであるということです。たしかに技術はあったほうがいい。より良い技術は,武器になります。ですが,他のさまざまな制作技術と同様,それを持っているだけではだめで,あるいはそれを持っているかどうか以上に,その技術で何を表現するかが肝要です。どういう展示技術が必要かは表現の内容によって違うし,その技術をどこまで追求すべきかも同様でしょう。

 レビュー当日は土曜日ということもあり,会場には家族連れや,高齢の方の姿も少なくありませんでした。漏れ聞こえる出展者との会話から察するに,在校生のご家族や知人,卒業生やギャラリストといった美術関係者にとどまらず,幅広い観客が来られていたようです。美術館会場の場合,スケールや持ち込める素材など,学内会場に比べ制作面での制約は多いかと思います。一方で,コロナ禍ゆえ例年ほどではないにせよ,さまざまな目にさらされ,時に意外な感想も聞くことができるのは,美術館会場の,もっと言えば京都市京セラ美術館の,最大のメリットです。すこぶる足の便が良い街の中心部,ふらっと遊びに行ける公園に美術館があり,しかも美術や文化に関心を持つ層が一定の数,集まっている。京都ならではの恵まれた環境です。東京であっても,逆に規模が大きすぎて,このようなほどよい観客との距離感はないでしょう。このメリットをより積極的に活用することができればとも感じました。

【講師紹介】
江上 ゆか(兵庫県立美術館 学芸員)
1969年兵庫県生まれ。1992年より兵庫県立近代美術館(2002年に移転し兵庫県立美術館と改称)に学芸員として勤務。近年,企画・担当した展覧会に「集めた!日本の前衛―山村德太郎の眼 山村コレクション展」(2019年)など。

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