本ガイドの目的

本ガイドは、タイムベースト・メディアを用いた美術作品を保存・修復・記録するためのガイドです。

今日の美術作品は、実に多様な媒体を用いて作られています。従来の絵画や彫刻に加えて、主として1970年代以降、フィルム、ビデオ、スライド、コンピュータ、パフォーマンスなど、時間的に展開するタイムベースト・メディアを用いた美術作品が盛んに作られてきました。タイムベースト・メディアの美術作品が増える中で、長期保存に適した絵画や彫刻とは異なる保存や修復が求められており、そのために作品を記録することも一層重要になっています。

しかし、英語圏では、テート美術館、ニューヨーク近代美術館、サンフランシスコ近代美術館が共同で推進する「メディアアートの諸問題(Matters in Media Art)」のように、タイムベースト・メディアの美術作品の保存・修復・記録に関する資料や議論が公開されていますが、日本語ではこうした資料や情報がまとまっていないのが現状です。そのため、タイムベースト・メディアの美術作品を所蔵する美術館は、同作品に特有のメンテナンスに関する十分な知識を持たず、作品の管理に問題が生じている場合もあります。

公立大学法人京都市立芸術大学は、国立国際美術館やダムタイプオフィス等とともに、平成27年度メディア芸術連携促進事業として「タイムベースト・メディアを用いた美術作品の修復/保存に関するモデル事業」を実施し、古橋悌二のヴィデオ・インスタレーション《LOVERS-永遠の恋人たち》の修復を行いました。事業実施の過程でタイムベースト・メディアの美術作品の保存・修復・記録について得た知見を、他の作品にも当てはめることができるように、メディアアートや保存修復の専門家の協力を得て情報や議論をまとめたのが、本冊子になります。これは、平成28年度メディア芸術連携促進事業として実施した「タイムベースト・メディアを用いた美術作品の保存・修復・記録のガイド作成」の成果物になります。

本ガイドが、タイムベースト・メディアの美術作品の保存・修復・記録に関する情報や議論の共有を促し、国内の美術館が収蔵するタイムベースト・メディアの美術作品の保存・修復の一層の促進に寄与できれば幸いに存じます。

本ガイドの作成にあたっては、多くの研究者や美術家、美術館から多大なご協力を賜りました。この場を借りて改めてお礼申し上げます。

(加治屋健司)

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