大学概要

学長メッセージ

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 京都市立芸術大学は,明治13年(1880)に京都府画学校として創設された,芸術系大学としては全国でももっとも長い歴史をもつ大学です。138年におよぶその歴史のなかで,京都市立芸術大学は設立当初より,日本の伝統芸術を継承・刷新するとともに,日本の近現代芸術の屋台骨を支え,世界的にも高く評価されるアーティストたちを数多く輩出してきました。その意味では,京都市立芸術大学は,京都のみならず,日本の芸術文化のきわめて重要な火床の一つであり,また世界への発信基地でありつづけています。

 芸術的な創造活動は,国家の歴史よりもはるかに古い《人類史的》ともいえるいとなみです。創生期の人類がすでに死者を弔い,花を手向けるという習俗をもっていたことからもあきらかなように,ひとの生老病死の傍らには,さらにひとの社会的な活動の脇には,つねに芸術・芸能がありました。芸術・芸能はその根を,理知のみならず,感覚や感情にまでも届かせる,人類文化の根幹となる活動の一つです。それはひとが大切にしなければならない感受性やふるまいの一つひとつを再発見し,かつ洗練させてゆくとともに,淀みかけた文化に新しい刺戟をあたえ,それを刷新してゆく,文化の駆動力の源泉の一つでもあります。

 芸術はひとを覚醒させるものです。いいかえると,芸術はつねに,文化が生まれいずるその場面に居合わせようとします。だからどれほど修練を積んだとしても,いつも初心者の心持ちから離れることはできません。アーティストは,制作の渦中でつねに「アートとは何か」「創造とは何か」と問いつづけています。その点では哲学の思考によく似ています。

 芸術はひとの感性や想像力を豊かにするものだと,よく言われます。言葉にならないものを表現するとも言われます。けれども,「悲しみ」という語が悲しみの感情に似ていないように,言葉もまたわたしたちのもつれた思いや体験に新たな形をあたえるものです。そういう意味では,言葉も大切にしてほしいと思います。ただし,できあいの言葉を器用に使えることが大事なのではありません。それよりも,言葉の立ち上がるその瞬間を注視してほしい。意味が,形が,生まれる瞬間に,です。

 芸術を志すみなさんには,いつも,(ひとの生死から細胞の蠢きまでを貫通する)〈いのち〉の根源,(ふだんの挨拶からグローバルな政治・経済までを貫通する)〈社会〉の根源,そこにまで高感度のアンテナを張り,想像力を届けていただきたいのです。芸術が《人類史的》ないとなみであるということは,どんな時代にあっても人びとの暮らしの根底で疼きつづけるということだからです。芸術をつうじて,おなじ時代を生きる人びとの歓びや悲しみに深くかかわるということ,そしてどんな苦境のなかでも希望の光を絶やさないこと,そういう使命もアーティストにはあります。

 それと同時に,本学は,公立大学として,地域住民との支え,支えられる関係に深く身を投じていきたいと願っています。美術・音楽はものづくりや芸能の伝統と共通の根をもっています。いいかえると,美術も音楽も,ものづくりや芸能の《わざ》から多くを学んできました。その豊かな土壌が京都にはあります。京の市井で古くより伝承されてきたこれらの《わざ》に深く学びつつ,そこに新しい息遣いを,新しい発想を吹き込むという使命も京都市立芸術大学にはあります。

 そういう使命の大きさ,重さにあらためて心を震わせながら,学習に取り組んでいただければと願っています。

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鷲田 清一(わしだ・きよかず)

[略歴]

昭和24年京都生まれ。昭和47年に京都大学文学部哲学科卒業後,関西大学教授,大阪大学教授,大阪大学総長などを歴任。大阪大学名誉教授,大谷大学客員教授,せんだいメディアテーク館長。専門分野である哲学・倫理学の視点からアート,ファッション,教育,労働,ケアなど様々な分野において,数多くの評論・執筆活動を行っている。

[受賞歴]

  • 平成元年 第10回サントリー学芸賞:『分散する理性』,『モードの迷宮』
  • 平成12年 第3回桑原武夫学芸賞:『「聴く」ことの力』
  • 平成16年 紫綬褒章
  • 平成24年 第63回読売文学賞:『「ぐずぐず」の理由』