アーカイ”バル”ナイトvol.02のお知らせ
芸術・資源・研究の辺境〜未完の記譜・感覚のアーキペラゴの周辺から
髙橋悟(美術家・京都市立芸術大学名誉教授)
開催日:2025年7月11日(金)17:30〜20:00
会 場:芸術資源研究センター「Archive Reading Room」/カフェ・コモンズ(C棟3F)
主 催:芸術資源研究センター
チラシ(PDF)
このたび芸術資源研究センターでは、新たに開設された「Archive Reading Room」において、過去の研究活動を振り返り、その記録や資料がどのような芸術資源として存在しうるのか、そして今後どのように保存・活用していくべきかを共に考えるシリーズ企画「アーカイ”バル”ナイト」をスタートいたします。記憶をたどり、記録を未来へとつなぐ試みです。
第2回目は、2014年から2019年にかけて施されたプロジェクト「未完の記譜法」および「感覚のアーキペラゴ」を取り上げ、当時中心となって取り組まれた髙橋悟先生をお迎えします。先生の研究活動を辿りながら、資料の保存・活用の可能性についてご一緒に考えるひとときとしたいと思います。
終了後には、軽食を囲んだ和やかなバルタイム (会費1,000円)も予定しています。食べ物、飲み物の持ち寄りも大歓迎です。開催は金曜日です。どうぞお気軽にご参加ください。
ゲストからのコメント
自分自身の行儀のよさの限界に突き当たった時、いわば思想の渦巻きができる。そして無限の後退がはじまる。言いたいことを言えばいいが、先には進めない。
―ヴィントゲンシュタイン「反哲学的断章」より
今回はArt(ヒトリヨガリナナゾ)とarts(生きるための様々な技術)に関わる制作研究ついて、「記譜」を手がかりに再考する時間になればと思っています。そのため過去の研究から「未完の記譜」、「感覚のアーキペラゴ」というベクトルの異なる2つのプロジェクトやその背景を紹介する予定です。この異なる2つのベクトルが交差するヒントを頂けるアーカイ”バル”ナイトとなればと思います。
「未完の記譜」
一般に、記譜法とは、楽譜、舞踊譜、図面など、行為の記録と再生の指示を行うものとされる。しかし、厳密なスコアを有したものでなく、広く、運動を起こす流動的な装置として、記譜を捉え直すならば、道具、公園、遊具、建築物、庭、そして芸術作品それ自身も、創造的な行為を誘発する「未完の記譜」と考えうる。これは、ひろく日常的な反応・動作を喚起する装置という意味ではなく、現実的な行為、運動図式がいったん宙づりにされる状況、見馴れた物・事が多様なフルマイの可能性へと開かれる事態をさす。小説や音楽の楽譜に代表されるように、記譜を書く主体と、それを読み・再生する主体は、2 つの異なった位相、時間軸に属する。2 つの異なった経験を同時に引き受けるとどうなるか。そもそも可能なことであるのか。創造的経験における、過剰な感覚・記憶・解釈の中では、ヒトの知覚・感情と行動の回路が解離し、行動を支える地平と身体感覚が分離する中で、あたかも「他者のごとく」自身の行動が引き起こされる。「未完の記譜」への考察は、従来の個人・表現・受容者を最小単位の前提とした芸術論、ならびに、美術・音楽・文学・建築などジャンル論とは異なったモデルによる制作・研究へと我々を導く。
「感覚のアーキペラゴ:脱(健常)の芸術とその記録法」
障害という言葉を割り当てられた創造行為について、従来の健常者を中心に構築されてきた知覚・表現論理や個人・表現・受容者を前提とした芸術論とは異なる視点からのアプローチを目指した。その為、作品という完結したモノの分析からではなく、モノ、集団、環境など活動の現場での相互行為や創作のプロセスに着目した。そうして知覚・情動など当事者の内的環境に於ける出来事が、道具や他者、空間など外的環境を含む「分散した感覚のネットワーク」から生まれる時間に立ち会うことになった。
プロフィール
髙橋悟(美術家・京都市立芸術大学名誉教授)
Arts(生存の技法)とArt(不可解な謎)が交差する制作・研究・企画に携わる。主な展覧会に「Trouble in Paradise:生存のエシックス」(京都国立近代美術館)、「京都国際現代芸術祭:Parasophia」(京都市美術館)、「横浜トリエンナーレ〜華氏451の芸術:世界の中心には忘却の海がある」(横浜美術館)、「NOWHERE:VALE OF PARADISE」(Centro Cultural Matucana ・サンチアゴ、チリ)ほか。プログラム企画としては「状況のアーキテクチャー」(2016-2018)、「霧の街のアーカイブ」(2019)、「霧の街のクロノトープ」(2020)、「霧の街のポリフォニー」(2021)、「共生と分有のトポス」(2022-2023)など。
背景つき顔写真(背景:柳原銀行記念館)
法と星座:Turn Court / Turn Coat (横浜トリエンナーレ2015 横浜美術館)Temporary Foundation として参加 2015年
揺れる茶会(京都芸術センター主催 明倫茶会:席主 建畠晢)2013年
状況のアーキテクチャー(Good Jobセンター香芝:出演 Shingo2, コンタクトゴンゾ, Good Jobセンター香芝のメンバー+スタッフ)2018年