未完の記譜法

プロジェクトリーダー:高橋悟(美術学部教授)

「未完の記譜法~言語・イメージ・身体に運動を起こす装置」の研究
「Art Documentation」とは,ボリス・グロイスの著書Art Power (2008, The MIT Press)で提唱された概念である。芸術経験を前提とした「作品(Art Works)とその記録(Documentation)」という関係にではなく,ヒト・モノ・状況の相互作用とその形成のプロセスの提示に重心を移動させる脱–芸術実践であり,日常的な生の文脈へ直に接続することが目指されている。グロイスの「Art Documentation」は,読む,書く,視る,聴くという従来の諸ジャンルに固定された「鑑賞形態」,歴史的文脈内における「作品」「作者」概念や「資料体・集蔵体(アーカイブ)」の場を転移し,「創造的誤読」へと導く新たな理論と制作の実践を目論む本研究とも呼応する。
具体的な研究例として,本年度は,大学移転プレ事業の一環として開催した「still moving – on the terrace」展(京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA,2016年4月16日~5月29日)について報告する。「still moving – on the terrace」展は,崇仁地域を主な発表会場とした2015年に続く企画である。「terrace」とは2020年度に計画されていた先行移転のキー・コンセプトで,これに対応する形で企画は立ち上がったが,市の方針変更で先行移転は中止となった。これに伴い,空き地に「terrace」を仮設する当初の案は取りやめ,「terrace」というコンセプトを函数として既存のギャラリー空間を読み替えるという手法へとシフトされた。ギャラリー二階の吹き抜けスペースを取り囲んで,参加メンバー達が行った立ち話から,このアイデアは展開した。スキーマ建築計画の長坂常氏には,会場構成デザインではなく,「空間の誤用」をテーマにした「読み替え図」(例えば,吹き抜けスペースは会議室,階段は劇場,可動壁面はホテルなど)の作成を依頼し,これを参加メンバーに割り当てることにした。割り当てられた「読み替え図」は,必ずしも固定化したものではなく,誤用の誤読なども可能である。例えば,筆者が割り当てられたのは,エレベーターとトイレを展示室に,可動壁をホテルに誤用するというものであったが,大学や崇仁の文脈とも重ねるために,エレベーター=学長室=工具箱,可動壁=芸術資料館,トイレ前のホワイエ=崇仁アーカイブズ(崇仁祭りのお囃子の譜面を壁紙にし,その前を崇仁小学校に設置されていた二宮金次郎像の複製が徘徊する)へと誤読する事にした。通常の展覧会におけるキュレーション,会場構成,作品配置とは異なり,オープンエンドなゲーム形式で展示に臨むことになったが,肝要な点は,空間の誤読ではなく,従来の役割分担(キュレーション,デザイン,作家,事務職など)の「誤配」による不安定な場の生成が可能となったことである。

平成26年度
平成27年度

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