第30回アーカイブ研究会 プラットフォームとしての図書館の役割 コロナ禍で露呈した物理的な公共空間としての弱さ



 佐々木美緒氏の発表は、「図書館とは何か」という問いからはじまった。
 日本では、各種図書館それぞれのあり方が、関連する法令によって定められている。大学図書館のばあい、「大学設置基準」(文部省省令、1956年)がそれにあたる。近年では、情報公開(レポジトリやオープンアクセスなど)、学習支援(ラーニング・コモンズ)、学内外の他機関との連携(MLA連携)などの諸機能も求められている。けれども、各大学固有の使命に沿って、必要な資料を系統的に蓄積し、教育研究に役立てる場所という図書館のあり方そのものは変わっていないと、佐々木氏はいう。
 一方で前回の研究会同様、交流やコラボレーションなど、さまざまな活動のための場所として図書館が注目されていることを佐々木氏も指摘する。たとえば近畿大学の「アカデミックシアター」(2017年開設)。ラーニング・コモンズ、産学連携、国際交流などのための専門施設をつなぐ「あいだ」の空間に、松岡正剛氏が監修した「近大INDEX」と呼ばれる独自の分類法に沿って配架された、マンガをふくむ数万冊の書物がならぶ。そこは文字通り、学生が行き交い議論する場所になっている。
 このように現代の図書館像は多様化しているが、それを佐々木氏は、〈共時的〉と〈通時的〉という異なる時間軸に属するふたつの役割から整理する。〈共時的役割〉とは、「同時代の社会における知識・情報・コミュニケーションの媒介機関」としての図書館の役割(場所としての機能)であり、〈通時的役割〉とは、「記録の保存と累積によって、世代間を通じた文化の継承と発展に寄与する社会的記憶装置」としての図書館の役割である(記憶機関としての機能)。そしてどれほど情報を伝達するやり方が変わっても、さまざまな資源を整理して検索可能な形にし、利用者が必要な資源にたどりつくことを助ける専門職者がいる。そうした人的資源によって、これらの機能が支えられている記憶機関、それが図書館なのだと佐々木氏は指摘する。
 まとめるならば、大学図書館とは、大学ごとに特色ある資源を蓄積し、それを教育・学術資源として活用しつつ、その成果をさらに蓄積して発信・公開するための、媒介機関/社会的記憶装置となる。芸術大学について言えば、これからの芸術大学の図書館とは、大学の中にあるさまざまな組織が、それぞれに深めてきた文化芸術資源を広く集約していく一種のプラットフォームになるだろう。学内組織それぞれの「深さ」を連携させ、広がりを持たせることで、大学としての特色ある文化芸術資源としてまとめていくことができるのではないか。佐々木氏はそう提案して、発表を締めくくった。
質疑応答では、検索のためのメタデータ記述に関する中央集権性の問題や、図書館の使命を大学全体で共有することの重要性などについて議論が行われた。

(佐藤知久)


第30回アーカイブ研究会

デジタル時代の〈記憶機関 memory institutions〉

プラットフォームとしての図書館の役割
コロナ禍で露呈した物理的な公共空間としての弱さ

講師|佐々木美緒(京都精華大学人文学部/図書館情報学・図書館員養成)

日時|2020年10月28日|オンライン配信

会場|芸資研YouTubeチャンネル

第29回アーカイブ研究会 デジタル時代の〈記憶機関 memory institutions〉―イントロダクション


佐藤知久氏は、5日にわたる研究会とシンポジウムの前提となるイントロダクションについて説明した。図書館、博物館、アーカイブは、それぞれ携わる人々の専門性によって、見えない壁があるように思えるが、文化資源を扱うという点に関して共通の特性があり、過去の記録を扱う施設や機関の総称として「記憶機関」という言葉を使うことによって、その垣根を崩して議論できる利点があるという。あわせて2023年の京都市立芸術大学の移転を契機に、従来の付属施設の担う役割を捉え直して、新たに連関させる機構の構想が進められていることも説明された。これ
からの芸術や芸術大学にとって記憶機関はどのようなものでありうるべきか?という問いが本企画の大きなテーマである。佐藤氏はデジタル時代に記憶機関がいかに変化してきたか、そのとき、図書館がどのような場所として捉え直されているか、そして芸術大学において記憶機関がどういう役割を果たせるか、事例の紹介と問題提起を行った。たとえばジョージア工科大学の改装された図書館のように、ストレージは外部にある書物のない図書館が開設されている。この場合、デジタル知識へのアクセスを担保するのが図書館の役割となる。というのも北米での公共図書館の役割は、「市民社会の情報インフラストラクチャー」であり、教養に資するだけでなく、何らかのアクションを促すための場所だと捉えられているからである。他方で日本の公共図書館の役割は、教養の提供の場から地域づくりの核となるものに変わっていった歴史がある。芸術大学の図書館はテキストベースの調査の場所だと考えられがちだが、系列的にモノが蓄積されてきた履歴に潜りこみながら、その物質性を新たな創造につなげることにあるのだという。芸術大学の図書館・博物館・アーカイブの連携の可能性を本研究会では探っていく。
 

(石谷治寛)


第29回アーカイブ研究会
デジタル時代の〈記憶機関 memory institutions〉―イントロダクション

講師|佐藤知久(文化人類学/芸術資源研究センター教授)

日時|2020年10月16日|オンライン配信

会場|芸資研YouTubeチャンネル

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