第31回アーカイブ研究会 美術館の資料コレクションは誰のもの?


 松山ひとみ氏は美術館の資料コレクションの観点から発表を行った。これまで美術館は所蔵している資料を主に展覧会や論文で公開してきたが、2022年開館予定の大阪中之島美術館では、利用者による閲覧の制度を整備し海外の研究者にも活用されるよう、情報発信を行うことを基本方針に定めている。美術館がこうした方針を打ち出すのは中之島美術館が先駆で、国内には明確なノウハウがないため、主に北米の情報を参照しながら進めてきた。国内では全国美術館会議によって、資料の所在情報をまず共有する試みが先ごろ行われ、美術館全体で資料を活用する機運が高まっている。
 美術館に関わる資料には、機関に関わる資料と、作品や作家に付随する収集アーカイブズがあるが、収集資料の受入れのプロセスが具体的に説明された。管理番号の付与、資料群の特徴と目的を決める作業指針の策定、資料に付随する各種のメタデータを国際標準化された基準に沿って付与していくが、カタログ化するまでの注意点などを、アーカイブ担当者は、予算や人出、需要に応じて決めていくことになる。必ずしも収蔵作品に関わらない美術関連資料であっても、新たな創作のために閲覧されることがあり、情報資源をさらなる価値創出へ還元する可能性を秘めている。
後半の討議では、作品と資料の曖昧なものや、作品の評価や保存には関わらない周縁的な活動の資料保管の意義、アーティストが独自に分類した資料群の寄贈の可能性、研究者やアーティストによる利活用の可能性も含めて、いかに美術館のアーカイブを社会に開かれた場所にできるかが議論された。

(石谷治寛)


第31回アーカイブ研究会

デジタル時代の〈記憶機関 memory institutions〉

美術館の資料コレクションは誰のもの?

講師|松山ひとみ(大阪中之島美術館/学芸員・アーキビスト)

日時|2020年11月10日|オンライン配信

会場|芸資研YouTubeチャンネル

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