彬子女王殿下特別授業の報告

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芸術資源研究センター客員教授の彬子女王殿下による特別授業は,4回の連続講義のかたちで行なわれた。一方通行の講義だけでなく,学生たちの声を聞いてみたいという,女王殿下の希望で,女王殿下による2回の講義と学生によるプレゼンテーションという形式で行なった。

前半2回の彬子女王殿下の講義では,まず大英博物館の設立の経緯についてお話された。大英博物館は,内科医で古美術収集家のハンス・スローンによる世界中の様々な文物,動植物,鉱物の標本などの蒐集品8万点が英国国家へ寄贈されたことを機に1753年に設立された。スローンの蒐集品は古今東西の分け隔てなく,ありとあらゆるものに及んでいた。現在において,文脈もなく蒐集されたコレクションは,ある意味ガラクタの寄せ集めなのかもしれない。しかし,時代に考えを及ぼし,当時の世界を俯瞰的に捉える意図からすれば,このコレクションは世界の縮図と言えるものであることを話された。

次に,このスローン・コレクションを最初に目録化した,オーガスタス・ウォラントン・フランクスによる3000点以上に及ぶ日本陶磁器の蒐集の話である。フランクスは蜷川式胤が著した『観古図説』を正統な日本陶磁器の教科書とみなし,そこに掲載されている作品を蒐集した。『観古図説』は石版刷りに手彩色され,陶器の産地の解説と全体図で構成された,全7巻に及ぶ陶磁器図録である。当時,日本陶磁器蒐集家は同書を手本とした為,世界中に同じような日本陶磁器コレクションが形成されることになっていることを題材に,コレクションの分類化,目録化,図版化が価値の創出に多大な影響をもたらしたことをお話になった。

次は,日本絵画コレクションの話。日本絵画のコレクションは,帝国海軍学校・海軍病院の解剖学と外科の教授として明治期に6年間日本に滞在したウィリアム・アンダーソンが蒐集した3000点以上に及ぶ日本絵画を,大英博物館に売却したことから始まったという。アンダーソンの死後,大英博物館学芸員で版画・素描部に勤務したローレンス・ビニョンが正統な「日本美術史」の構築を行ったとお話をされた。

そこから,現代とのつながりとして新しい日本ギャラリーの展開のお話になった。漫画を題材に,「東アジアの仏教」展と「聖☆おにいさん」,「土偶」展と「宗像教授異考録」のお話をされた。

これらの講義を通し,女王殿下は美術史の文脈の中では語られることのないコレククターの役割や博物館の位置,歴史と価値の変化を説明された。「モノ」はコレクションされること,分類化し目録とすることによって価値が変化する。作品自体の価値と同様に,そこにまつわる記録も重要な価値があるものであることを話された。大英博物館でしかできない「日本」展示とは何か考えプレゼンテーションして欲しい旨を伝えられ,2回の講義は終了した。

3,4回目の講義では学生のプレゼンテーションが行なわれた。新しい視座でこれまでの研究や作品を捉え直し,自身の研究,自身の作品,見慣れた制作室にあるモノを持ち寄り,プレゼンテーションを行なった。学生のプレゼンテーション後,女王殿下,本学の教員からコメントが述べられ,終始なごやかな雰囲気で進行し,4回の連続講義は終了した。

(美術学部准教授 森野 彰人)

 

特別授業「コレクションと美術」

日時:2015年10月7日,10月14日,10月21日,10月28日

(毎週水曜全4回) 13:00–14:30

会場:京都市立芸術大学大学会館交流室

講師:彬子女王殿下(芸術資源研究センター客員教授・特別招聘研究員)

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