第9回アーカイブ研究会「文化の領野と作品の領野 アーティファクトとしての視覚文化」の報告

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第9回アーカイブ研究会は,批評家の石岡良治氏をお迎えして,「文化の領野と作品の領野 アーティファクトとしての視覚文化」と題するお話をしていただいた。

石岡氏は『視覚文化「超」講義』(フィルムアート社,2014年)で,現代を「情報過多時代」と捉え,そうした条件のもとでの視覚文化について考察した。論考集『「超」批評 視覚文化×マンガ』(フィルムアート社,2015年)では,マンガやアニメなどのポピュラー文化作品を主に取り上げ,作品分析を行なった。

今回のレクチャーは,YouTubeなどの「動画サイト」やハリウッド映画やアニメーションや「ゴールドバーグ・マシン」などの映像作品を含む視覚文化の話を中心に,情報過多の時代における思考の在り方を提言してくれるものであった。

石岡氏は,アーカイブが質を問わない資料の総体であるとき,そこに資料の傾向性をみつけることがアーカイブの調査ではないかとして,情報過多の現代においてはあらゆる駄作や名作という判断を外し,その基準が一旦宙づりとなったところにみえる傾向に目を向けることが,ポピュラーカルチャーだけではなく,あらゆる領野において重要であると言う。また石岡氏は,あらゆる領野ごとに存在するレギュレーションの違いをみていくことで,文化と文化,空間と空間などでの違いを違いのままとせず,多用な基準や構造を作り示そうとしていると述べた。

さらに,映画などの視覚文化が与えられる情報量の限界についても言及していきながら,一方で,アーティファクトを「人工物」ではなく,なんらかの技が入ったモノ,物質であると拡大解釈することで,物質と情報における情報の有意性を超えた,物質ないし視覚文化が未来に投企する新たな情報の可能性をアーカイブの可能性として示唆した。また,今後は「忘れられる権利」に伴って,情報消去の技術が進んでいくなかで直接的にも潜在的にも忘却をアーカイブはどのように扱うのかが今後の課題であるとして話を終えた。

途中では,レギュレーションの一例として現代の美術作品の多くが扱っている,つながっていないのにつながっていると見なすという認知や作品において組み込まれた飛躍の要素を含んだ問題系を,デュシャンの《彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁,さえも》の「独身者たち」から「花嫁」への飛躍にはじまり,リュミエール兄弟,ゴールドバーグ・マシン,ヒッチコックの『ロープ』,フィッシュリ&ヴァイスの《事の次第》といった中に見出し,分野横断的な思考の在り方が示された。作品制作や研究をおこなう聴衆が多く集まった教室では,そのような新たな時代に向けての思考の在り方に刺激され,情報過多の時代における制作や調査研究に多くの着想が与えられたのではないだろうか。

(芸術学研究室修士課程二回生 田川 莉那)

 

第9回アーカイブ研究会

「文化の領野と作品の領野 アーティファクトとしての視覚文化」

日時:2015年10月23日(金)15:00–16:30

会場:京都市立芸術大学アトリエ棟構想設計ゼミ室

講師:石岡良治(批評家)

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