五十嵐太郎特別授業の報告

IMG_6649

2015年6月8日に,建築史・建築批評家であり,「あいちトリエンナーレ2013 揺れる大地 われわれはどこに立っているのか 場所,記憶,そして復活」の芸術監督を務められた五十嵐太郎氏をお招きした特別授業「3.11後に企画した展覧会とプロジェクト あいちトリエンナーレ2013を中心に」が開催された。

2011年3月11日に発生した東日本大震災は各地に甚大な被害をもたらした。五十嵐研究室がある東北大の建物も,耐震工事を行なっていたにもかかわらず大破してしまったという。学生のシェアハウスや知り合いの研究室を間借りしながら授業・研究を進めていきながら,五十嵐氏は津波で被災した広範な地域を歩いて見て回り,その時の経験をまとめた『被災地を歩きながら考えたこと』(みすず書房,2011年)を上梓されている。

五十嵐氏は被災地を歩くなかで,自然環境と人工的な環境が織りなす各地の「場所」の違いによって,被災被害が大きく異なっていたことを目の当たりにされた。とりわけ強く衝撃を受けたのが女川であったという。その「場所」の地形がもたらした甚大な津波被害によって,頑丈なはずのコンクリート建造物が大破してしまっていた。五十嵐氏はこの時に初めてものを残しておくこと,そのことによって「記憶」することについて考えるようになり,震災で倒壊した建築物の保存についてリサーチを行なうようになったという。本講義では,イタリアのジベリーナや中国の四川など,壊滅的な震災被害を被った建造物や都市が,どのように保存されてきたのかという先行事例を紹介しながら,それが観光資源として活用されたり,ときにナショナルな物語を引き寄せたりすることについて指摘された。また,美術家の彦坂尚嘉と行なった仮設住宅地に塔を建てるというプロジェクトについて言及し,水平に広がる仮設住宅の均質的な連なりに垂直の塔を打ち立てることで特異点を作り出し,「記憶」に残る風景を創りだそうとしたと述べた。この塔は《復活の塔》として「あいちトリエンナーレ2013」にも展示されていた。特別授業の中で五十嵐氏は,震災と建築との関わりを以下の三つの段階に分けて語られていた。緊急避難のための「避難所」,「仮設住宅」,「新しい建物(復興/復活)」である。それに加えて五十嵐氏は,講義の最後で,構造物を建てるにとどまることなく構造物によって人々の関係性を設計するような活動を行なっている3.11以後の建築家の活動を紹介し,それを「リレーショナル・アーキテクチャー」と呼ぶことを提案された。

今回の特別講義は,あいちトリエンナーレの副題となっていた「場所」「記憶」「復活」をキーワードに震災と建築との関わりについて様々な話題を展開していくものであった。とりわけ,モノをいかに残して「記憶」を継承するのかという話題はアーカイブとも深く関わる問題であり,紹介された事例を含めて,極めて示唆に富むものであった。

(芸術資源研究センター非常勤研究員 林田 新)

 

特別授業「3.11後に企画した展覧会とプロジェクト あいちトリエンナーレ2013を中心に」

日時:2015年6月8日(月)15:00—17:00
会場:京都市立芸術大学 大学会館交流室
講師:五十嵐太郎(建築史・建築批評家、東北大学大学院工学研究科教授)

詳細

 

アーカイブ

ページトップへ戻る