塩見允枝子特別授業の報告

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2015年6月16日に大学会館ホールで、塩見允枝子氏(特別招聘研究員)による「FLUXUSパフォーマンス・ワークショップ」が行われた。

これは、副題「実演を通してフルクサスを体験しよう」が示すように、話を聞くだけではわからないフルクサスの思想をダイレクトに体験し、何でもない日常の事象や行為を芸術的イベントへと変換する視座を参加者のなかに散種する試みであった。これは、2014年秋に美術学部造形計画2B「アーティストブックをつくる」の授業で行なった塩見氏のレクチャー(※1)をさらに展開し、美術だけでなく音楽の学生にもフルクサスの芸術思想に触れえる場として企画された。実際、ジョン・ケージの思想に連なり、音楽家も多く参加したフルクサスには、インストラクションとしての「スコア」とその「実演」という独自の表現形態があり、実演=実践を通じた創造的理解にふさわしい側面を有している。

演目は次の通り。

(1)フィリップ・コーナー《ペタリ・ピアニッシモ》「花びらが落ちたピアノの鍵盤を弾く」

(2)ジョージ・マチューナス《アドリアノ・オリヴェッティへの追悼》「メトロノームに合わせて、テープ上の数字を目で追いながら自分が担当する数字が出たときに短く鋭い音を出したり同様のアクションをする」

(3)エリック・アンダーセン 《Op.17》「数的秩序によって次第に長くなる半音階の頂点音の直後にそれまで弾いた全ての音をクラスターで弾く」

(4)ラ・モンテ・ヤング《コンポジション1960#10》「直線を引いてそれを辿れ」

(5)ジョージ・ブレクト《二つの持続》「赤 緑」

(6)エメット・ウィリアムズ《5人の演奏者のための10のアレンジメン卜》「リーダーがベルを鳴らすと演奏者たちは動く。リーダーが二度目にベルを鳴らすと、みんな一言ずつ言ってピタリと止まる」

(7) 塩見允枝子《幽閉された奏鳴曲》「既成のピアノ曲が騒音に閉じ込められ、楽器や演奏者たちも視覚的に閉じ込められる」

(8)ディック・ヒギンズ《ゴング・ソング》「一方の足を前に出してそれに体重を移し、もう一方の足を前に出してそれに体重を移し、というインストラクションをナレーターが反復し、ウィンナー・ワルツをバックに全員が行為する」

(9)ディック・ヒギンズ《コンステレーションズNo.6》

主な「楽器」は、ピアノと参加者の身体、彼らが持ち寄ったさまざまなオブジェ。ピアノ演奏にはピアノ専攻の学生があたり、どの曲も参加者各人の自由な解釈行為を伴うユニークな展開となった。例として(3)(4)(5)の同時演奏をあげる。これはエリック・アンダーセンの曲を4人がピアノ演奏するなか、美術の院生・卒業生が、ラ・モンテ・ヤングの「直線を引いてそれを辿れ」と、ジョージ・ブレクトの「赤の持続と緑の持続をパフォーマンスによってつくり出す」を実演したものである。糸と風船による垂直・水平の直線の実現と身体を使ってのトレース、傘に赤と緑の水を注ぐことから始まる4人の奏者による演奏、そしてピアノの鍵盤から打ち出される音列の規則的反復の同時進行は、ホールの空間性を活かして豊かな視覚的聴覚的時間をつくりだす秀逸なものとなった。同時性と継起性のアレンジという音楽固有のコンポジションは、美術ではあまり体験しえないもので、それだけでも彼女たちが得たインスピレーションは大きかったと思うが、それ以上に検討過程での塩見氏からの次のアドバイスは、フルクサスのエッセンスを実感させるものであった。

「フルクサスの作品のパフォーマンスは、それによって何かを象徴しようとか表現しようとするのではなく、もっと即物的にその事柄を行ない、見せたり聞かせたりするものなのです」(※2)。

さらに、ワークショップの記録映像に刺激を受けたフィリップ・コーナー氏からは、「花びらを鍵盤全面に散らして同時に演奏するやり方はかつてない」として、新しい演奏方法のアイデアが塩見氏に届いた。これはフルクサスという「芸術資源」が、実践を通じて新たな創造を生み出すことを示唆している。研究者の論文や研究発表にとどまらず、多様な実践を通じて「芸術資源」を新たな創造の可能性につなげていくことが「創造のためのアーカイブ」に問われている。

(美術学部教授 井上 明彦)

 

註:

(※1) 柿沼敏江「塩見允枝子特別レクチャー報告」http://www.kcua.ac.jp/arc/2014/11/021/#more-843

(※2) 2015年6月11日,塩見氏から熊田悠夢・出口義子宛メール

 

特別授業フルクサス パフォーマンス・ワークショップ〜実演を通してフルクサスを体験しよう〜」

日時:2015年6月16日(火)15:30—17:30
会場:京都市立芸術大学大学会館ホール
講師:塩見允枝子(芸術資源研究センター特別招聘研究員)

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