第5回アーカイブ研究会 「アーティストはいつしか作品を作るのをやめ,資料を作り始めている」の報告

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 第5回アーカイブ研究会は,アーティストの田中功起氏をお迎えして,「アーティストはいつしか作品を作るのをやめ,資料を作り始めている」と題するお話をしていただいた。
 田中氏は,「アーティストは未来の観客に向けて作品を作っている」という村上隆の発言を紹介して,作品と歴史の関係について考察を始めた。ボリス・グロイスのアート・ドキュメンテーションに関する文章を参照しながら,私たちは,作品を見るとき,作品と同時に未来の資料を見ており,作品を見る視線を二重化していると指摘した。それは,現在の評価と未来の評価,作品としての価値と資料としての価値などを同時に見ているということである。田中氏は,その二重化された視線を攪乱することを主張した。言い換えれば,単に未来の美術史家による解釈を待つのではなく,未来の再評価の可能性を知りつつも,そうした単線的で不可逆的である歴史的展開を攪乱しようということである。
 具体的にはどのようなものだろうか。田中氏は,《不安定なタスク#7》(2013年)という作品で,「黄色い布を身につけている間はある特定の社会問題(この場合は反原発)について意識し続ける」ことを集団で行った。その背景には,東日本大震災のときにロサンゼルスにいたために日本で震災を「経験」せず,その後の反原発デモにも参加できなかったことがある。この作品は,どのような場所においても政治参加することを可能にし,プロテストへの参加を意識し続けることで,意識の変革を日常化するという提案となっている。これは,高松次郎の《台本・5》(1974年)にある「ある特定の意識内容を,できる限り同じようにくり返すことを努力し,そしてできる限り長い時間,そのくり返しを続けるように努力すること」の再解釈であり,岡崎乾二郎が述べた,「もしそのデモに参加できないとしても,あなたはただ黄色のTシャツを着て,どこにいてもプロテストに参加しているということを示せばいい」という発言を踏まえたものであった。それは,過去の再解釈であると同時に,未来から現在の実践を見ることをも含んだものであり,その意味で,「過去,現在,未来を同一平面上に折りたたむ」ことであると田中氏は述べた。
 続けて田中氏は,5月にFrieze New Yorkで展示し,会場のある場所の現実を参照した《Versatile Distance》,1998年と2012年に行った次回作を考えるという作品,京都市美術館で1970年に開かれた「人間と物質」展を参照するPARASOPHIAでのプロジェクトについて話された。それぞれ,歴史の再演,自作の再使用,美術史との交渉という側面をもっており,いずれも,作品と歴史の関係に対する田中氏の考えを示すものであった。
 これまでアーカイブ研究会では研究者をお呼びしてきたが,今回初めてアーティストをお呼びすることになった。通常は教員や大学院生の聴衆が多いのであるが,学部生を含む多くの学生が集まり,これまで最も多くの来場者があったイベントとなった。田中氏が示した,単線的な歴史に抵抗する作品という視点は大変興味深いものであった。芸術の生産とアーカイブの関係については検討し始めたところであり,これから議論を深めていければと思っている。

(芸術資源研究センター准教授 加治屋健司)

第5回アーカイブ研究会
「アーティストはいつしか作品を作るのをやめ,資料を作り始めている」
日時:2014年12月08日(月)17:00—18:30
会場:京都市立芸術大学大学会館交流室
講師:田中功起(アーティスト)
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