彬子女王殿下特別授業「美術のウラ側にあるもの」の報告

IMG_6168
 12月12日,芸術資源研究センター特別招聘研究員の彬子女王殿下による特別授業「美術のウラ側にあるもの」を開催した。当日は本学の学部生や院生の他にも多くの教員・職員が参加し,講演は終始和やかな雰囲気。
 英国オックスフォード大学マートン・コレッジへの5年間の留学中,ロンドンの大英博物館での学芸ボランティアをご経験された女王殿下。博士論文は,19世紀末から20世紀に大英博物館の日本美術コレクションの基礎を築いたコレクターの収集から,英国における日本美術理解の形成についてまとめられたという。芸術学や美術史の文脈では語られることの少ない美術理解に対する博物館の位置,コレクターの役割,複製の存在意義などについてお話をいただいた。
 殿下は英国での研究の一環として,3万5千点にも及ぶという大英博物館所蔵日本美術コレクションの収蔵記録の整理をされた。その途中で発見されたものの中に,桜井香雲という絵師による法隆寺金堂壁画9号壁の模写があった。現存する法隆寺壁画の模写としては最古と推定される本作は,現在東京国立博物館にある香雲の模写の先駆けとなったものであることが判明。この発見がきっかけになり,戦前に京都の便利堂が制作した法隆寺壁画のコロタイプ複製を発見した時のエピソードなどに参加者一同がひきこまれた。
 法隆寺壁画の一連の発見には古筆了任という人物の存在があった。明治期に自費でヨーロッパ留学をし,大英博物館に雇われて日本美術品のカタログ制作に尽力した古筆は,当時貴重な日本美術鑑定家としてロンドンで活躍。法隆寺壁画の発見も,博物館の日本美術部に残る収蔵品カタログの古筆によるメモが発端だったという。
 殿下はこれらの経験から,芸術を考える上で避けて通ることのできない,うつしや贋作をどのように考えるべきかという問題について指摘された。一例として留学中に知り合った日本美術コレクターのジョー・プライス氏とのやりとりを提示された。「自分が良いと思って買った作品が贋作だったらどうしますか」との問いにプライス氏は「私が良い作品と判断したのであればそれで十分だ」とおっしゃったという。ここから,たとえ有名作家の作品ではなくとも素晴らしい作品はあること,そして,現代まで生き残ってきたことには理由があることを提示。作品だけではなく,作品にまつわる記録にも価値があることもあるということに触れ,「ただモノが保管されるのではなく,作品にまつわる様々な想いと一緒に残されてされていくことを忘れないで欲しい」と結論付けられた。
 講義の後は,学生や教員との活発な質疑応答があり,次回の特別授業への期待も高まった。

(芸術資源研究センター非常勤研究員 前﨑信也)

彬子女王殿下特別授業「美術のウラ側にあるもの」
日時:平成26年12月12日(金曜日)13時30〜15時
会場:京都市立芸術大学 大学会館交流室
講師:彬子女王殿下(芸術資源研究センター特別招聘研究員)

アーカイブ

ページトップへ戻る