講演会 「イタリア未来派—芸術の革命」の報告

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2015年の秋も深まる頃,大学会館交流室において,日本に滞在中のイタリアの音楽学者ルチャーナ・ガリアーノ氏によって,講演会「イタリア未来派 革命の芸術」が行なわれた。

1909年2月,フィリッポ・トマソ・マリネッティが『フィガロ』紙上で「未来派宣言」を発表した後,はやくも同じ年に森鴎外がその翻訳を文芸雑誌『スバル』に掲載したことはよく知られている。日本ではロシア未来派とともに,その受け入れは早かったが,未来派はもっぱら美術の運動として知られてきた感がある。今回は,「騒音芸術宣言」,ノイズ楽器,そしてその記譜法といった音楽の活動を含め,演劇,文学,バレエなど広く領域を広げて「イタリア未来派」について語っていただいた。

ジャコモ・バッラのツバメや犬を題材とした絵画,カルロ・カッラの馬と騎手の抽象絵画,ウンベルト・ボッチョーニの歩く人をモデルとした彫刻,ルイジ・ルッソロの車を描いた絵画など,物体や身体の動きを大胆にとらえたイタリア未来派の美術作品は,スピードやダイナミズム,動性や弾力性を感じさせる。空間と時間の概念を一緒に提示するこれらの作品は,ほぼ同時代に展開していたピカソやブラックのキュビズムとも異なるユニークな特徴を持っていたことが分かった。

音楽については,未来派のオーケストラやルッソロの「騒音芸術宣言」の紹介に続いて,「イントナルモーリ」というノイズ楽器についての説明があった。ルッソロは画家であったが,またアマチュアの音楽家でもあり,ノイズ楽器の制作と演奏に情熱を燃やした。未来派オーケストラのためのノイズが,轟音,ささやき声,動物と男性の声など6つの種類に分けて考えられていたという興味深い説明もあった。またノイズ楽器のための記譜法の実例として,ルッソロの作品《都市の目覚め》の楽譜が紹介された。これは五線譜を使ってはいるものの,折れ線グラフのような線で音の進行を表示する方法をとっており,西洋音楽としてはきわめて斬新なものであった。

ジャック・アタリは「新たな秩序を構築するために既成秩序を破壊する雑音」について論じたが,未来派のノイズ楽器がそうした既存のシステムに疑問符をつきつけるひとつの武器であろうとしたことは明らかだ。ルッソロの試みは新たな秩序の構築に直接結びつきはしなかったが,近年盛んになっている「ノイズ・ミュージック」の先駆として,その重みを増しているようにも思われる。

ガリアーノ氏の講演は,この他ダダのクルト・シュヴィッタースとの近接を感じさせるような音響詩,フォルトゥナート・デペーロの実験的な劇場やバレエについての解説も含んでおり,イタリア未来派の多様な面を知ることができるものであった。

講演は,一部英語での説明もあったが,基本的に日本語で行なわれ,会場からの質問も数多かった。写真との関連,記譜法などについて質疑応答があり,充実した内容の講演会となった。なおこの講演会は,芸術資源研究センターの記譜法のプロジェクトに関連した催しであったことを付記しておきたい。

(音楽学部教授 柿沼 敏江)

 

講演会 「イタリア未来派—芸術の革命」

講師:ルチャーナ・ガリアーノ(音楽学者・音楽美学者)

日時:2015年11月20日(金)17:00–18:30

会場:京都市立芸術大学大学会館交流室

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