公開講演会「情報技術の視点から見たアーカイブの可能性と展望」の報告

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 芸術資源研究センターでは,アーカイブの理論的な理解と可能性の共有のため,研究者やアーティストによるさまざまな研究会を開催しているが,実際に資料をアーカイブ化し,維持・発展させていくための技術的な研究は,もっぱら文系の研究者主体の本学では,残念ながらおざなりにされがちである。理論と技術(デザイン含む)は両輪であるべきだが,後者が欠けた現状は,同時期に立ち上げられるべきメディア・サポート・センターの設立が遅れていることにも一因がある。
 本講習会は,本学美術学部独自の授業「総合基礎実技」のカリキュラムのアーカイブ化に取り組む「総合基礎実技アーカイブ・プロジェクト」が,実際的な必要性に迫られながら,上記の欠落を少しでも埋めるべく企画したアーカイブ研究会の「番外編」であった。
 招聘した三分一信之氏は,芸術文化に関心を持つ情報技術者として,東京大学情報学環やポンピドゥ・センター,アジアの放送・出版人との共同研究によるアーカイブ構築や支援ソフトウェアの開発にたずさわり,アーカイブ技術の可能性や問題,世界的動向について熟知されている方である。
 講習会では,主に次のことが紹介・指摘された。

(1)資料のデジタル化上の留意点(解像度やファイル形式,保存方法など):
 ここでは,データ保存の方法や場所に加え,資料のデジタル化においては情報だけでなく情報の物質的支持体も考慮すること(二次情報,三次情報の重要性),アーカイブの長期的汎用性の保証は確実ではないこと(IT技術のたえまない進化や政治社会体制の変化による)に注意が促された。非物質性が強調されるデジタル・アーカイブの物質的基盤やその限界を再認識しえたことはひとつの成果であった。

(2)フランスにおけるラジオとテレビの音声・映像アーカイブの進展(1970年代初頭にラジオとテレビの映像を対象とした法定納入制度を導入)と,それらを記述・体系化して活用するためのソフトウェア “Lignes de temps”(ポンピドウ・センターのIRIが開発)の内容:
 ここでは,各シーンを分割して,その箇所に注記やタグを定義して検索できるようにする工夫など,美術・音楽にたずさわるわれわれにも縁深い「非言語的なもの」の検索可能性をどう実現するかという問題が喚起された。

(3)アーカイブ化されていくさまざまな情報の関連性をビジュアルに表現するソフト「無為(WuWei)」の開発とそのデモンストレーション:
 「無為(WuWei)」は,さまざまな情報にタグや注記を定義し,それらの関連を表現するいわば概念地図作成ソフトで,三分一氏の開発によるものである。デモンストレーションでは,複数の美術家による複雑なアート・プロジェクトの概念構成がたちまち図式化され,アーカイブ技術が創造活動を支援しうるものであることが示唆された。

 講演後の質疑も活発で,今後,こうした技術的側面にも留意したアーカイブ研究がメディア・サポート・センター設立とともに進められ,研究教育と創造につながることを願ってやまない。

(美術学部教授・総合基礎実技アーカイブ担当 井上明彦)

(井上明彦 美術学部教授・総合基礎実技アーカイブ担当)

•日時:10月22日(水)、16:00~17:30
•場所:芸術資源研究センター共同研究室
•講師:三分一信之氏(東大特任教授)
•主催:芸術資源研究センター(総合基礎実技アーカイブ・プロジェクト)
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