第1回アーカイブ研究会「写真とアーカイブ」

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 6月25日に第1回アーカイブ研究会が開催された。芸術資源研究センターでは,アーカイブの理論と実践について理解を深めるべく,様々な分野の専門家をお招きして研究会を随時開催していく。その第一回目となる今回の研究会では,京都精華大学の佐藤守弘教授をお招きし,「写真とアーカイブ 旅行写真,鉄道写真を例として」というタイトルでお話しいただいた。
 佐藤氏は,冒頭でいくつかのアーカイブの実例をあげ,そもそも記録文書を前提としていたアーカイブ概念を他の領域へと拡張して用いることの意義とは何かという問題を提起した。また,デジタル・データを基盤としたアーカイブでは,タグによる動的な資料間の関連付けによって,かつてのカード式の分類法では起こりえなかった資料間の再コンテクスト化が可能となるという点においてタグ付けという分類法が肝要になるのではないかという指摘もされた。
 続いて佐藤氏は,写真とアーカイブに関する理論的な研究について実例を交えながら論じられた。絵画が最終的に美術館の壁に落ち着くのに対して,写真は何らかの体系にそって分類されたアーカイブ――ここでいうアーカイブは物質的なものではなく「写真が元来属していた一団の実践,制度,関係」のことを指す――のうちにあったのであり(ロザリンド・クラウス「写真のディスクール空間」),膨大な写真群が不可視なままに「影のアーカイブ」を形作ることもあれば,その一部が顕在化することもある(アラン・セクーラ「身体とアーカイブ」)。また,ある写真アーカイブは,その所有者や形態が変化していくにつれてその「意味論的なライセンス」も変化していく(アラン・セクーラ「アーカイブを読む」)。こうした写真アーカイブ論を踏まえた上で,佐藤氏の研究対象である19世紀後半の日本で外国人向けの土産物として販売された横浜写真,明治天皇の臣下の肖像写真を集成した『人物写真帖』,もともとは個人のコレクションだったものの今は鉄道博物館所蔵となっている鉄道写真が具体的な事例として論じられた。
 質疑応答を含め,今回の研究を通じて強く感じたことは,アーカイブをめぐる論点の多さである。アーカイブとは何か,という本質的な問いは言うまでもなく,タグ付けと分類法は同じなのか,なぜ今これほどアーカイブに注目が集まっているのか,何かを残そうとする欲望とは何なのか,アーカイブと記憶はどのように関わっているのか,かつてのアーカイブは権力と容易に結びつきうるがデジタル化によってそれがどうなるのか,など様々な論点が提示された。

(芸術資源研究センター非常勤研究員 林田新)

第1回アーカイブ研究会
「写真とアーカイブ 旅行写真,鉄道写真を例として」
日時:2014年6月25日(水)17:00—18:30
会場:京都市立芸術大学第三会議室
講師:佐藤守弘(京都精華大学デザイン学部教授)
詳細

●研究会で言及されたアーカイブ・プロジェクト

●言及された主な文献

  • Allan Sekula, “Reading an Archive: Photography between Labour and Capital,” Jessica Evans and Stewart Hall, eds., Visual Culture: the Reader, London: Sage, 1999
  • Allan Sekula, “The Body and the Archive,” Richard Bolton, ed., Contest of Meaning: Critical Histories of Photography, MIT Press, 1992
  • クラウス,ロザリンド「写真のディスクール空間」『オリジナリティと反復』小西信之訳,リブロポート, 1994年
  • 佐藤守弘『トポグラフィの日本近代――江戸泥絵・横浜写真・芸術写真――』青弓社,2011年
  • 佐藤守弘「鉄道写真蒐集の欲望――20 世紀初頭の日本における鉄道の視覚文化――」『京都精華大学紀要』第39号,京都精華大学,2011年
  • 佐藤守弘「写真とアーカイブ――キャビネットのなかの世界――」原田健一編『懐かしさは未来とともにやってくる――地域映像アーカイブの理論と実際――』学文社,2013年
  • 佐藤守弘「写真と仏像――〈仏〉の美-化と商品化――」『文化学年報』第62輯,同志社大学文化学会,2013年

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