塩見允枝子特別レクチャー報告
11月21日に芸資研特別招聘研究員の塩見允枝子氏の特別レクチャーが開かれた。美術学部の共通授業,造形計画2B(担当:井上明彦教授)「[読めるものと読めないもの2] Artist Bookをつくる」として行なわれたものである。1960年代以降にグローバルに展開された前衛芸術運動,フルクサスのメンバーである塩見允枝子氏には以前,美術と音楽両方の学生を対象としたワークショップをやっていただいたことがあったが,今回はおもに美術の学生向けの授業としてアーティストによるBook Artをテーマとして行なわれた。
フルクサスのアーティストが本やカタログに興味を持っていたことはよく知られている。フルクサスの創設者ジョージ・マチューナスが構想した作品集は,後に仲間のラ=モンテ・ヤングらによって正方形の本『アンソロジー』として出版されたし,ディック・ヒギンズは自ら出版社Something Else Pressをつくって,様々なアーティストによる本を出版した。また塩見氏がこのレクチャーのなかで紹介したものとして,アリソン・ノウルズの『ビッグ・ブック』がある。ベネツィアでのフルクサス・フェスティヴァルに出品されたこの作品は,文字通り人の背丈以上もある「大きな本」であった。
今回塩見氏は,ご自身の制作による本形式による作品を具体例としてとりあげることからレクチャーを始められた。たとえば『イヴェント小品集』はカードなどの印刷物をケースのなかに収める形をとる作品で,カードは綴じられることなく,バラバラなままに置かれている。また『フルクサス・バランス』は,ポートフォリオのなかに,天秤の写真と,その上で釣り合わせるべくメンバー達から寄せられた言葉やイラストのカードなど様々な印刷物が差し挟まれて,やはり多様なものがひとつのまとまりをつくっている。『Shadow Event No. Y』は小冊子だが,『Shadow Event No. X』は平面作品としてつくられていて,SHADOWと書かれた薄いプラスティックを文字の書かれた平面に重ねると,光の投射によって,SHADOWがまさに影として映し出される興味深い作品になっている。
ここから話は,塩見氏独自の「トランスメディア」の考え方(同じコンセプトや内容を異なった媒体で作品化すること)へと移っていった。たとえば『日蝕の昼間の偶発的物語』は,最初はケルンのブック・オブジェクト展に出品するための鍵のかかった手書きの本であったが,後に平面作品になった。またこれはパフォーマンスとして演じられることも,室内楽作品として演奏されることもあり,さらに紐で閉じられた全6巻の手製の本(36部のマルチプル)やイラストつきのアルバム本にも変化したことが説明された。そしてこのうちの第3巻を実際に,パフォーマンスとして演じる試みが行なわれた。この物語は,同じ頭文字を持つ英単語を多用して作られているので,塩見氏自身がそれらの単語を多少強調しながら朗読し,学生たちに小さなマラカスを渡して,その単語が出てくる度にシャカシャカと賑やかに音を鳴らしてもらったのである。このようにノイズで頭韻を踏んだ言葉を補強することによって独特のリズムが生まれ,それがパフォーマンスや室内楽へと発展していく過程が示された。
次に塩見氏は1本の紐を取り出し,それをもとにして想像力を膨らませ,架空の本づくりのためのアイディアを考えてみようと提案し,ブレインストーミング形式で進められた。数名の学生たちが様々なアイディアを出し,なかには宇宙へと広がっていくような興味深い発想も含まれていた。
塩見允枝子氏による特別講義は,通常私たちが「本」としてイメージするものを越えた多様な広がりをもつ本の世界を開いて見せてくれる内容であった。オリジナルなアート・ブックを考えることに繋がるこの試みは,学生たちにとって大きな刺激になったのではないかと思われた。
(音楽学部・芸術資源研究センター兼担教授 柿沼敏江)
芸術資源研究センター特別招聘研究員特別レクチャー
「読めるものと読めないもの2」Artist Bookをつくる
日時:平成26年11月21日(金曜日)午前10時40分から12時10分まで
会場:京都市立芸術大学 中央棟3階L1教室
講師:塩見允枝子(芸術資源研究センター特別招聘研究員)
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