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学校教育における鑑賞指導に関する一考察 -小学校における鑑賞教材の開発と実践を通して-

―(論文要旨)―


 本研究では学校教育における鑑賞指導の歴史的経緯及び小学校の鑑賞指導を中心とした現状の分析により、美術鑑賞のありかたを検討し、鑑賞教材を開発した。また、その教材を用いた授業を実践し、効果についても検証した。


 明治以降の近代学校教育における美術教育の内容は、当初より画法を知識や技術として理解させる「表現」の指導が中心であった。資料等に「鑑賞」の指導が見られるようになるのは、大正時代に入り、山本鼎による自由画教育運動が始まる頃からである。戦後の小学校学習指導要領における鑑賞については、改訂のたびに鑑賞の位置づけは明確化されており、その一因として、鑑賞の指導が十分行われなかったことも考えられる。


 現在の教科書の図版は児童作品のお手本的な要素が強く、教科書のみを使用した鑑賞指導は難しいと思われる。実施した質問紙調査からも、小学校では表現のまとめとして児童作品の相互鑑賞が多く行われ、独立した鑑賞指導の実践は少ない。また、美術館の一般観覧者からは小・中学生が美術館を利用することを肯定的に捉えている調査結果が得られた。


 小学校段階における鑑賞指導は、従来の鑑賞方法である知の伝達ではなく、知の創出を目的とし、先入観なしに自分の見たものから良さや美しさを感じ取ることであり、その方略として「話し合う鑑賞」「追体験としての鑑賞」「場の設定を行った鑑賞」をキーワードに設定し、具体的な鑑賞の教材開発を試みた。開発した教材は、以下のような特徴を持つ。


 (1) 地域の文化施設である市立美術館を活用する。

 (2) 美術館鑑賞を中心とし、その事前・事後学習を行う、3ステップの構成。

 (3) 鑑賞の指導に追体験としての表現を取り入れる。

 (4) コンピュータを活用し、児童が鑑賞の対象(絵)を選択する試みを行う。


 さらに、開発教材の評価を児童の発言やワークシートの記述等から行うとともに、児童の変容を分析した。児童の発表やワークシートの記述から、


 (1) みんなの意見を聞く活動を通して、多様な見方を知り深めることができた。

 (2) 決められた順序ではなく、主体的に絵を選び、興味・関心を持って取り組むことができた。

 (3) 本物の絵を間近に鑑賞することにより、細かな表現まで見取ることができ、表現活動と結びつけることができた。


​ 一方、課題としては、コンピュータの環境設定やソフトウェアの取り扱い、ディスプレイ上での鑑賞の限界、指導時間数の問題、美術館との連携の必要性なども明らかとなった。これらの課題を検討すると共に、他教科との連携など新しい要素を取り入れ、多様な学校、年齢の児童・生徒に対しても実践を行い、鑑賞教育の指導に広く活用できる教材として改善していきたい。


 鑑賞活動は、小学校段階における美術との出会いだけで終わるのではなく、中学校・高等学校そして生涯にわたって美術鑑賞の機会が十分に得られなければならない。そのためには、さらなる図画工作・美術教育の充実、美術館の教育普及活動の活性化等が求められる。同時に学校教育と美術館との連携も重要である。芸術・美術大学は美術文化を守り、発展させる上でも、学校教育、鑑賞者と美術館との連携を支援する研究活動をしていく役割も担っていかなければならないと考える。

2003年度 同窓会賞 総合芸術学科 総合芸術学専攻 4回生 石原 麻衣

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