博士(後期)課程
教育・研究目的
研究領域
日本画
美術研究、なかでも日本画表現が現代社会に寄与する様々な可能性は、伝統的かつ革新的な思考と実践による美意識の継承及び開拓にあると考えます。そのため本領域では他領域の多彩な表現研究者と共有する博士ラボで制作を行うことで、広い視野と柔軟な思考を培いながら高い次元での研究遂行が期待できる環境を整えています。
博士課程において実施される、これまでの自身の制作経験から研究課題を立ち上げ、実践を通して、そこに内包する論理を見出し言語化するという作業は、絵画表現の本質への理解を深め、他者との共有を目指すものです。
日本画研究領域では、創造的かつ果敢な研究姿勢、絵画指導を通して自律した制作者の育成を目指します。
油画
油画をはじめとした現代における絵画表現の可能性を追求しながら、理論と実践の双方から研究を行います。歴史、文化、人物、素材、技法など、美術表現とその時代背景や文脈を考察しながら、多岐にわたる視野と独創的な研究を通じて、新たな芸術価値を研究成果として提供することを目指します。指導教員は、定期的なレビューやフィードバックから学生の研究プロセスをサポートします。
彫刻
彫刻の実技と理論の考察を通して、彫刻の創造研究を行います。空間的、立体的表現に関する理論研究を行うとともに、表現意図に応じた素材、技術の広範かつ高度な専門研究を行い、空間や立体に作用する諸要素も計測に入れて、新たな彫刻表現の創造を図ります。また、高度な専門研究を通じて、高等教育における指導者の育成を図ります。
版画
版画の諸技法と理論の研究を通して版画の創作を研究します。「版」特有の表現方法の研究を行うとともに、デジタル機器などを用いた表現形態など、表現目的に応じた技法の広範かつ高度な研究を行い、新たな「版」表現の創造を図ります。
構想設計
現代美術、映像メディアに限らず、新たな芸術領域を創造するための、高度な独自性を有する研究・制作を多元的な方法でサポートしていきます。専攻教員による指導に加え、他領域や他大学の専門家と連携したチームティーチングの体制で制作・リサーチ・論文の指導を行うことで、芸術領域における質を保持・深化しつつ、複数の領域との相互触媒的な関係から、複雑な世界における潜在的コモンズを社会化できる人材を育成します。また博士ラボにおいては、外部も含めた様々な共同プロジェクト、ミーティング、実験等を行うことが可能となっています。
総合デザイン
多様なデザイン分野を包含する領域であり、美学的側面のみでなく、構想、技術、感性の統合として、社会的価値を理論化する研究者を養成します。そのために、それぞれのデザインの研究分野における実技と理論の高度な制作・研究を行いますが、修士課程までと比べて、社会的意義、学術的意義が問われるために理論の比率が高くなります。緻密なデザイン言語、文化の観察、そこから得られる仮説の検証により理論構築と制作を行います。デザイン領域の教員と、他領域の教員、他大学の専門家の連携による調査/論文/制作指導により世界の再定義を目指します。
デザインB
先端的なデザインの表現や理論は、アート、テクノロジー、ビジネス、アカデミアなどのさまざまな分野が絡み合った小道に立つことで初めて形を持つものだと私たちは考えています。
問題の発見や解決を掲げてきたデザインという分野は、社会からの要請に応じて、状況を省察しつつ、柔軟にデザインの内容や形式だけでなく、手段や目的も再定義してきました。しかし、そうした再定義の試みがどれだけ効果的で意義深いものになるかどうかは、問題にされねばなりません。
来るべきデザインの表現や理論の担い手となるにあたって、問題を綿密に観察し、詳細に理解し、素材や人間への本質的な知識と経験を持つことが必要になります。つまり、個人的な思い込みを捨てて、絶えず自分やデザインを相対化することです。
そうした幅広さを身につけるために、諸分野と連携を進めるだけでなく、デザインと社会の実験的な結びつきを提案する運動に参加してもらいたいと考えています。
なお、課程修了および学位取得後の就職などの進路については、研究や表現の成果が活かせるよう、指導教員をはじめとする大学院スタッフがサポートしています。
陶磁器
陶磁素材による創作とその理論を研究します。伝統的な陶磁器制作の研究を踏まえ、新たな視点から技法研究や広く陶磁素材を用いた表現の理論的研究を行い、現代における陶磁表現による創作を行います。
漆工
漆を素材とした創作とその理論を研究します。伝統的な漆工制作の研究を踏まえ、塗装方法の比較研究と広く漆を用いた表現の理論的研究を行うとともに、現代的な漆芸作品の創作を行います。
染織
染織やテキスタイルに関する表現や技術において、理論と実践の両面から研究を行います。
社会や歴史、自然との関わりを考察し時代に応じた新しい技法や量産化の研究や広い視点で文化的・社会的意義を探りつつ、繊維を使った創造的な表現の研究など、染織・テキスタイルにおける、新たな芸術的価値や社会的意義を研究成果として提供することを目指します。指導教員は、定期的に学生の研究の進捗を確認し、改善点や次のステップを明確にする助言を通じて学生の研究をサポートします。
芸術学
芸術学、美術史、工芸史、美術教育などを中心に、広く芸術現象を扱った理論的研究を行います。研究対象は幅広く、古今東西の芸術作品、多様な芸術現象、芸術を取り巻く環境、さらに社会における芸術振興などをカバーする多様な専門性を備えた教員が学生の研究をサポートします。学生は、自らの設定したテーマに関して、作品調査、資料収集、集めた資料や文献の読解・分析を行い、理論的・批判的考察を加えて研究を進めます。研究成果は学会、研究会等での口頭発表や、学術論文や報告書等として公表することになります。修了生の進路としては、美術館・博物館の学芸員や、大学の教員など、専門の研究職に進む者が多く見られます。広く芸術にかかわる事柄と時間をかけて根気強く向き合い、学術的・専門的に追及してみたい方を歓迎いたします。
保存修復
文化財の保存および修復の理論と技術に関する研究を行っています。対象分野の中心は日本・東洋絵画で、復元を含む保存修復の実技的研究に加え、素材・技法についての科学的研究も実施しています。京都の立地を活かし、研究テーマに応じて京阪神を中心とした美術館・博物館・社寺などに所蔵される作品を中心に様々な調査を行い、その成果を学会発表や論文、模写制作などで公表しています。
産業工芸・意匠
伝統産業のための意匠を提案する作家やデザイナーを育ててきた本学の伝統を踏まえ、現在では専門化・細分化した工芸・デザインのノウハウを持ち寄り、複合的研究の場を醸成すべく、博士(後期)課程のみに創設された研究領域です。
伝統的な工芸意匠、加飾などのデザインを研究し、その応用化・産業化を目標に研究する工芸領域の学生と、「京都デザイン」さらには「日本デザイン」の創出を目指すデザイン領域の学生の双方に開かれた研究領域です。
*工芸領域の教員と、デザイン領域の教員が連携し、学生の研究に対応します。
博士ラボ
博士課程の学生たちは、専門分野の違いを問わず、C棟6階の博士ラボにて制作・研究にあたります。特定の設備を要する一部の専門領域については、関連専攻内に制作場所を置きますが、その場合も、論文執筆のために、個人ブースやPC、プリンターなどが用意されたこのスペースを活用することが可能です。博士論文のための制作・研究という意義深くも困難な挑戦に取り組む仲間たちと専門の垣根を越えて交流を持ち、お互いに刺激や共感をやり取りすることが可能な開かれた場です。博士ラボの運用については学生の自主性に委ねられている部分が大きく、在籍者のニーズに合わせた使い方をしていくことが可能です。個々の専門性を高める一方で、領域横断的な視野を獲得することを促す空間であることを願っています。