総合基礎実技
40年を超える実績 新入生のすべてが履修するプログラム
美術学部は、美術科、デザイン科、工芸科、総合芸術学科の4つの学科から成ります。入試は、この4つの学科ごとに募集し、各専攻に分かれるのは、1年次前期の「総合基礎実技」を履修した後、各専攻の基礎を学んでから。2年次以降(デザイン科は3年次以降)、それぞれの専攻の学びと実技へと進んでいきます。
本学の芸術教育の特色は、創造活動の土台となる基礎力の育成を重視する点にあります。入学後の半年間、美術学部すべての新入生が、科・専攻の枠を越え、総合基礎実技を履修します。
授業目的
美術学部には、40年以上の実績がある領域横断型のユニークな授業があります。それが「総合基礎実技」(略称:総基礎)です。受験実技から創作の世界へとスタートを切る上で、非常に重要なプログラムとして、この授業を位置付けています。
美術学部の新入生は全員、所属の科に関係なく4クラスに編成され、科の枠を越えた課題に取り組みます。指導を担うのも、実技や学科、専門分野の枠を越えた教員です。各領域に通じるテーマが設定され、テーマに基づく課題を展開していき、展示として成果を発表します。授業の形態は、関連講義のほか、ワークショップや、チュートリアル(個別指導)、個人またはグループによる制作、学外研修、発表、合評などさまざまです。
入学直後から半年にわたり取り組む中で、異なる方向性を持った学生同士、学生と教員の間にコミュニケーションが生まれます。自己の視野を広げ、多様な学問領域の人との交友関係を築いていくことも、芸術という大海に船出するための豊かな礎になります。
2022年度 総合基礎実技 課題テーマ 『美術の力』
人は太古の昔から生きるために何かを作ったり描いたりしてきました。それは世界を自分の身体を通して認識することであり、他者と対話する方法であったといえます。2022年度の総合基礎実技では、深刻になる環境や進化するテクノロジーなど、ますます複雑になる現代社会へと歩み始める新入生と一緒に、人が根源的に持っている生きるための創造力(美術の力)について考えました。
第1課題 「等身大のわたし」
古来より画家は自画像をたくさん描いてきました。美術家にとって自分の姿は最も身近な生きた対象であり、常に自分の身体を通して世界を見つめてきたと言えます。自画像とは一体何でしょうか。また等身大に描くとしたらどんなものが想像できるでしょうか。 芸大生となった皆さんが京芸キャンパスに思い思いの「場」を見つけ出し、その風景の中に設置することを前提として、「等身大の自画像」を制作します。個としての自分を見つめ、京芸という場所と共鳴することで「美術の力」を考えていきます。
第2課題 「校舎に刻む」
40年という時を重ねたこの沓掛校舎には、京芸生の思いと共に、たくさんの痕跡が残されています。かつての京芸生たちの思い出が詰まった校舎を、新入生としてどのように見るか。自分なりの発見で校舎のどこかに自分のお気に入りを見つけましょう。そして、描くことによりその場に関わることで、そこは特別な場所として心に刻まれるでしょう。自身の身体を通して、よく見ること、感じ取ること、表すことの第一歩をこの校舎と共に始めましょう。
第3課題 「道具を作る」
「おもてなし」をキーワードに身体機能の拡張としての道具や、自分と他者をつなぐ道具を作ります。「おもてなし」は茶の湯に由来しますが、茶を点てるだけではなく、客や大切な人への気遣いや心配りを意味します。ものづくりやその表現において、成果物の鑑賞や実用への心配りは「おもてなし」の精神に通じるものがあります。本課題では、地域性と素材、作ることと伝えること、生活と芸術、 精神と身体、自己と他者などさまざまな関係を意識しながらユニークなTool(道具)を発案し、人の心を潤すTool(手段)へと発展させます。
第4課題 「プレイパーク」
「表現」とはどこから始まるのか? クレヨンを持って描いたり、土を練って造形することから始まるのか? 言葉を使って話すこと、服を作って纏うこと、食材を調理して食べること。そして、人と集い時間を共にすること。私たちの生活を見てみると、ありとあらゆるものがすでに「表現」であることに気付きます。第4課題ではこれまでの経験を踏まえ、大学内の空間を使って集団で生活を創造します。他者と共に衣食住を遊ぶことで、生活と芸術のつながりを発見します。