漆工専攻
漆の美を追求し
自由で創造的な漆工表現を学ぶ
教育目的
漆工は、ウルシノキから採取された樹液を精製し、塗料や接着剤として用いる、東アジアを中心に発展した、日本を代表する伝統工芸です。
本学漆工専攻は、木工・髹漆・乾漆(複合)・加飾の4つの分野を基本に置き、一貫制作により自由で創造的な漆工表現を学びます。各自が現代に適応した新たな造形表現の可能性を探求するとともに、工芸では必要不可欠な機能性や用の美を追求します。必要な技術と計画性を身につけて、漆工表現の本質的意味を考えられる、次代を担う人材の育成を目指しています。
卒業後は、漆工分野だけでなく、デザイン・建築・現代美術の分野で活躍する人や、教員として後進の指導に当たる人も多くいます。
実技カリキュラム
1年次前期の総合基礎実技を修了後、1年次後期からは「工芸科基礎」において、陶磁器、漆工、染織の3専攻の専門課程の内容を知り、基礎的課題に取り組みます。
工芸基礎(1年次後期)
1年次後期は、3専攻(陶磁器・漆工・染織)の基礎を学び、2年次から各専攻に分かれます。陶磁器、漆工、染織の各専攻課程へ進むために必要となる素材と技術の基礎を修得し、各専攻の専門課程の内容を知り、選択の指針とします。(それぞれ4週間程度)
- 陶磁器:成形から本焼成までの作陶の基本的工程をひと通り体験。
- 漆工:木を削り合成漆を塗装し、装飾を加えるという基本的な漆工芸のプロセスを体験。
- 染織:モチーフの観察から図案へと展開し、染色技法による表現を学ぶ。
漆工基礎A・B(2年次)
2年次の前・後期、漆芸の用具、漆の性質、木工具・機械などの使用方法、漆工全般の基礎実習と制作を行います。デッサン、木地(製図、箱、器、家具)、髹漆(器物および変わり塗り)、加飾(パネルに漆技法で装飾)、乾漆(立体造形・複合素材加工)の学習を重ね、それぞれの技法の要点を修得します。
漆工1・2(3年次・4年次)
木工・髹漆・乾漆(複合)・加飾のうち、希望のゼミを選択し、各専門分野を中心とした実習と自主テーマによる制作を行います。制作と実習は半期を区切りとし、成果として1年に2回の作品展示(前期展・作品展)を行います。4年次後期は各自の制作をより探究し、卒業制作に取り組みます。作品の初期段階では、担当教員だけではなく、専任教員全員の意見を聞ける場としてチュートリアル(個別指導)が行われます。また作品展示では合評を行い、作家としての意識の確立を目指します。通常の実習のほかに、各分野で必要な実習や外部講師を招いてのワークショップ、工房などの見学会や研修旅行も行っています。
漆工専攻の4つの分野
- 木工:木材を用いた制作です。主に木彫・家具・食器などを作ります。
- 髹漆:漆の塗りを主体とした制作です。呂色・塗り立て・変わり塗りなどの技法があります。
- 乾漆(複合):麻布と漆で素地を作る乾漆技法のほかに、さまざまな素材を使った複合的な制作をします。
- 加飾:漆の塗面に装飾を施します。蒔絵・螺鈿・漆絵などの技法があります。
科目一覧
在学生の声
作品を作るたびに新たな発見があります。
土田 蛍太さん(漆工専攻4回生)
漆工専攻では2年次にひととおりの基礎を学び、3年次以降ではより細かい分野に分かれて制作を行います。3年次以降の制作は自主制作となるため、自分の表現したいことについて自由に制作ができます。学校としても自由な気風を持っており、古典的な技法を追求したり、独自の技法を開発したりなど個人個人が異なったアプローチを持って漆と接しています。 漆は素材として非常に独特な性質を有しているため、漆に対する理解なしではうまく扱うことができません。しかし、その分多様な表情を見せてくれる素材でもあり、学べば学ぶほど新たな一面を見つけることができます。作品を作るたびに新たな発見がある。漆の奥深さにいつも驚かされるばかりです。
専攻独自の取り組み
地域連携事業
京都市南区役所主催で2024年3月1日〜20日にワコールスタディホール京都で開催された「下京・南まちなかアート」に工芸科として協力し、漆工専攻の学生も作品を展示しました。
研修旅行
例年5月から6月にかけて、石川県輪島漆芸美術館では、漆芸コースがある全国の大学から卒業・修了生の作品が一堂に会する展覧会が開催されます。そのギャラリートークとシンポジウムの日程に合わせて輪島へ研修旅行に行きました。産地見学を通して、漆芸への思いをより一層深めることができました。
あいづまちなかアートプロジェクト「会津・漆の芸術祭」への参加
「あいづまちなかアートプロジェクト」は、歴史と文化が刻まれた会津のまちなかを舞台として、会津の文化資源である「漆」をテーマとした「会津・漆の芸術祭」と、地域が誇るアーティストの優れた芸術作品などを展示する「まちなかピナコテカ」を融合した文化振興イベントとして2013年度から開催しています。地域に息づく文化は、年月をかけて、多くの先人の力によって育まれ、現代の私たちへと伝えられてきました。このプロジェクトでは、芸術を通して、これまで大切に受け継がれてきた地域の文化を発信し、次世代へとつないでいくひとつのきっかけとなること、さらには、記憶に残るアートと人、まちと人、人と人との出会いをつくり出し、アートの持つ創造の力で、会津の伝統・芸術文化の新たな可能性を探ることを目的としています。
非常勤講師(実技)一覧
- 北浦雄大
- 公庄直樹
- 佐々木萌水
- 佐藤由輝
- 城 愛音
- 矢野洋輔
各教員の取組み
栗本夏樹 教授
2020年9月20日の13時~16時に西宮市大谷記念美術館でワークショップ『ステンシル技法で作る漆絵の盆』を開催しました。小学生から熟年世代まで9名の参加者が漆絵に取り組みました。新型コロナ対策でマスクをして、間隔を空けて、作業の実演はスクリーンに映写しながら説明しました。
安井友幸 教授
2017年にこどもうるし生活プロジェクトを大矢一成先生と立ち上げ、「こどもとうるしをつなぐ」をテーマに活動しました。2018年度はあいづまちなかアートプロジェクトに「さわろう!遊ぼう!うるしで育むこどもの世界に」学生と共に制作した漆塗りのすべり台の「うるしやまのぼるくん」と漆のコマ崩しパズル「T‐3」を出品し、こどもたちが漆に触れ合うきっかけづくりを試みました。
笹井史恵 准教授
豊田市美術館での漆講座を実施。
大矢一成 准教授
2018月11月に「パン屋で出会った陶芸家と木工家のうつわ展」を開催しました。うつわ展の会期中に、漆器を使い理解を深めるイベントとして、「木と陶のうつわとパンと野菜料理を味わう会」を本学卒業生の佐々木萌水氏と企画し、漆器や陶器の素材の特性やものづくりの話を聞きながら、作家と語らい食す会を実施しました。会場には漆塗パズル「うるし9」と漆塗滑り台「うるしやまのぼるくん」が設置され、こどもたちにも漆に親しんでいただけるきっかけづくりとなりました。
2018年12月に、有馬玩具博物館で開催された「冬の水あそび 森あそび 大矢一成 木の仕事展」では、木と漆でつくられた、さわってあそべる作品が多数展示されました。会期中には、感じるワークショップ「眼で聴く、耳で視る」と、つくるワークショップ「木と貝でクリスマスオーナメントをつくろう」を開催し、木と漆に親しみながら感覚を研ぎ澄ますことや、ものづくりのたのしさを知っていただく活動を行いました。