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京友禅を中心とする 呉服産業に関する一考察 -その現状、行方、課題、及び試案-

―(論文要旨)―


 京友禅に代表される京染は、染呉服の生産量の約9割を占めている。京友禅の考察を通して、呉服業界が置かれている現状を把握し、今後の呉服業界の行方を推測し、その課題を考察し、私なりの試案を提示することが、この論文の目的である。 京友禅には様々な定義があるため、混乱しやすい。そこで卒論では各種の定義を検討した上で、京友禅振興協議会の定義を用いることとした。これによると、京友禅は「意匠的な特徴、制作方法に関係なく、京都及びその近郊で作られた染呉服全般」と規定することができる。


 京友禅は極めて細分化された生産構造と複雑な流通構造の下に成り立っている。呉服市場規模は年々減少しており、市場の縮小は今後も続くものとみられる。職人が高齢化していることからも、伝統技法を用いる手描き友禅や型友禅などの生産規模は、さらに縮小する可能性が高い。代わりにインクジェット捺染といった機械捺染が、大衆的な着物文化を担っていくものと思われる。


 呉服産業衰退の最大の原因は、人々が着物を着なくなったことである。しかし、根本には、着物のTPO、旧来の生産、流通、販売の仕方など、呉服業界のシステムが時代の変化に対応しきれなくなっている状況がある。人々に着物を着たいと思わせるイメージ作りができていない。それどころか逆に、一部の悪質業者が過量販売や虚偽表示などを行い、消費者の不信感をかうような販売体質が続いており、消費者の着物に対する印象を悪化させている。従来の生産流通構造を見直しながら、消費者の信頼を取り戻して行くことが課題となっている。


 呉服市場が低迷し、後継者不足が懸念される中、手描き友禅や型友禅などの職人達が安定的に仕事を確保し、後継者を獲得するためには、着物以外の新たな需要の開拓を行うべきである。これは京友禅に限らず他の伝統産業にも通じることである。後世に伝統産業を継承することは、日本の伝統文化や日本人としてのアイディンティティ―を保持することにつながる、大変重要な事柄である。京友禅をはじめとする伝統工芸品を、既存の形のままで海外に展開したり、他産業に結びつけて展開することには限界がある。しかし、伝統産業が培った技術やノウハウを生かしながら、新しい製品を開発するモノづくりは、市場の限界を大きく突破する可能性がある。そのような試みの結果、海外において、また他産業において、京友禅の評価が高まったならば、その評価が国内に逆に流入するであろう。それが、ひいては伝統的な着物や既存の伝統産業の振興にもつながるものと思われる。


 そのためには、かつての京友禅の問屋や悉皆屋にかわるような、伝統産業を担う職人を総合的にサポートしていくための仕組みを作り、人材を育て、職人と共に新たなモノづくりを行っていく土壌を築くことが必要である。卒論の最終章では、伝統産業とアンテナショップを連携させて、プロデューサー、マーケッター、プランナー、デザイナー、伝統産業の職人などがそれらに緩やかに結びつき、企画、流通、生産を行ってゆくプロジェクトを提案している。


 この試案をさらに煮詰め、それを現場で実践することによって、京都の伝統産業の新たな行方を模索してゆくことが、私の今後の課題である。

2008年度 奨励賞 総合芸術学科 総合芸術学専攻 4回生 森 真琴 Makoto Mori

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