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戦後日本の椅子デザイナーとメーカー企業の関係性

―(論文要旨)―

 

 今日、私たちは日常生活の中で椅子に座って何かを行うことが少なくはない。食事、仕事、休息など、様々な場面で、何の気にもとめることなく、当たり前のように椅子を使用している。しかし、私たち日本人が椅子を使用するようになってから、実はそれほど時間が経っていない。また、現在では服飾品や建築などでは制作したデザイナーが注目され、認知度が高くなっているが、椅子に関しては誰がどの椅子をデザインしたのかなどということは、ほとんどの場合知られていないし、どのようにして市場に出回り、使用されるまでに至るのかも、不明瞭である。そのことに関心を持ち、今回、日本での椅子デザイナーとメーカーの関係性はどのようになっているのかを調査、考察し、本論文をまとめることとした。

 

 本論文では、全体を大きく3つの章に分け構成し展開していく。

 

 第一章では、戦後の日本の椅子デザインに注目し、そのデザインをしたデザイナーとメーカー企業がどのような関係であったかの全体像の考察を行っている。日本のデザイン全体の動向をおさえ、戦後の日本の椅子デザイナーとメーカー企業の関係性を調査し考察を進めていくと、戦後の日本ではメーカー企業が家具の開発に対してあまり積極的ではなく、フリーランスのデザイナーと提携するのは限られたメーカーであったことがわかった。

 

 第二章では、内田繁という一人のデザイナーに注目し、その思想やメーカー企業との関わり方についてまとめている。年代毎にデザインを追うことで、1人のデザイナーのあり方を把握するとともに、インタビューを通して日本のメーカーの現状などを知ることができる。

 

 第三章では、2つのメーカー企業に注目し、デザイナーとの関わり方や流通経路についてまとめている。日本全体の流通の状況をつかむにはまだまだ調査不十分ではあるが、それをつかむ手かがりとして今回まとめるに至った。

 

 最後に、結論で本論文全体の内容から導かれることと、今後の日本の椅子デザイナーとメーカー企業の関係性についての考察をまとめている。

 

 日本では現在、椅子生活が急速なスピードで定着していっている。椅子に対する文化は、「普及」から「定着」、そして今「成熟」の時期に差し掛かっているように思う。食や衣服、車などだけではなく、長く使用し、生活により根ざしている家具や家電など、「環境」にも良質さを求める時代になってきている。価格だけではなく、品質、デザインにも繊細に思考を巡らせ、今後はさらにデザイナーやメーカーの関係が広がることによって、より斬新で良質なデザインが生まれ私たちの生活に浸透していくことを期待したい。

2012年度 同窓会賞 総合芸術学科 総合芸術学専攻 4回生 坂本 美樹 SAKAMOTO Miki

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