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アイノ&アルヴァ・アアルトについて -デザインからみる両者の関係性-

論文要旨

 アイノ・アアルト(Aino Maria Marsio-Aalto, 1894-1949年)とアルヴァ・アアルト(Hugo Alvar Henrik Aalto, 1898-1976年)は、フィンランド人の建築家・デザイナーである。2 人は夫婦であると同時に仕事上のパートナーでもあり、25年間に渡って共同の事務所で設計やデザインをおこなってきたが、両者の作風の違いや関わり方については未だ明らかでない点が多くある。夫のアルヴァは1930年代からニューヨーク近代美術館(MoMA)で展覧会が開催されるなど注目を集めてきた一方で、妻のアイノについてはアルヴァほど詳細に語られず、共同プロジェクトにおける役割も曖昧なままであった。このことをふまえ、本論ではアイノとアルヴァについて、両者の作家としての特徴を明らかにすることを目的とする。

 具体的な作品を見ていく前に、2人の経歴や主要な共同プロジェクトについて確認したのち、先行研究をもとにアイノが影を潜めてきた要因を検討した。まず当時の建築家には男性が多く、アイノのこれまでの評価においてジェンダー・バイアスが根底にあることは無視できない。さらに、アルヴァは衝動的で人目を引くような存在感があり、一方でアイノは落ち着いていて控えめであるといった、個人の性格の対照性も浮かび上がった。これに加え、建築図面等に書かれるサインは確実性に欠け、両者の細かな役割の違いを潜在化させているという問題も明らかになった。このような要因に留意しつつ2人の共同プロジェクトを詳しく見ていき、活動形態の変遷や社会的な背景を鑑みて、1930年代のプロジェクトが2人の特徴を明らかにするうえで有効であると判断した。

 実際の作品比較においては、1930年代前半の代表的なプロジェクトであること、特殊な用途に沿ってトータルで設計されたことなどから、パイミオのサナトリウム(1929-32年)に注目した。さらに、建築よりも両者の担当部分が明確であると思われる家具デザインに焦点を絞り、アイノとアルヴァそれぞれのデザインについて詳しく見ていった。その結果、両者とも療養患者の快適さを考慮しており、このうちアルヴァのデザインには機能だけでなく造形的によりこだわった点が確認できた。しかしこの時点では2人の特徴を裏付けるには至らないため、家具デザイン以外の分野における比較が必要となった。

 そこで、次の調査ではガラス製品におけるデザインに視点を移した。アイノとアルヴァのガラスデザインは1930年代に制作が集中しており、単独の名義でデザインコンペに参加した記録がある。また家具デザインほど詳細な作品分析がおこなわれていないことからも、注目する意義があると考えられる。主要なコンペから応募部門や受賞結果を比較していくと、アイノは実生活に即した用途に対し使い勝手を細かく配慮した実用性の高いデザインで、アルヴァは用途に囚われずに有機的な自由曲線を用いた造形性の高いデザインで、それぞれ評価を得ていることが分かった。ここにおいて、家具デザインで見られた両者のデザインの特徴が、より明確に表出された。

 これまでアイノ& アルヴァ・アアルトは、控えめで地に足のついたアイノ・社交的で奔放なアルヴァというように観念的な言葉によって語られることが多かったが、具体的に個人の役割が特定できるデザインを比較することによって、それらが作品にどのように表れているのかを明らかにすることができた。これにより、アイノとアルヴァだけでなく他の芸術家たちの事例においても、過去の評価を再検討し更新していくことの重要性を示したい。

2020年度 市長賞 総合芸術学科 総合芸術学専攻 学部4回生 野村 翠 NOMURA Midori

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