令和3年3月23日,令和2年度美術学部・音楽学部卒業式並びに大学院美術研究科・音楽研究科学位記授与式を,今年度は新型コロナウイルス感染症対策のため,卒業生,修了生と教職員のみで,2部に分けて執り行いました。また,御家族の皆様,関係者の皆様には,動画のライブ配信で御視聴いただきました。
美術学部122名,音楽学部58名,美術研究科修士課程52名,音楽研究科修士課程18名,美術研究科博士課程4名,音楽研究科博士課程1名が,門川大作京都市長と教職員に温かく見守られ,卒業式並びに学位記授与式に参加しました。
今年も趣向を凝らした自作の仮装で出席する学生が多数おり,答辞の際には講堂内に笑いが溢れるなど,本学らしい和やかでアットホームな卒業式となりました。
卒業生・修了生の皆さん,本当におめでとうございます。
教職員一同,皆さんのご活躍を心から期待しております。
令和2年度卒業式式辞
(※2部制での式辞を一部編集し,掲載しています。)
本日,ここに集われた美術学部122名,音楽学部58名のみなさん,大学院・美術研究科52名,音楽研究科18名の修士課程のみなさん,そして美術研究科4名,音楽研究科1名の博士課程のみなさん,総勢255名のみなさんが,ご卒業ならびに修了されますこと,誠におめでとうございます。京都市立芸術大学を代表いたしまして,心からお祝い申し上げます。
また,本学の設置者である門川大作京都市長には,ご公務がいつもに増してお忙しい中ご臨席いただきましたことに,深く感謝申し上げます。
本学の卒業式・学位記授与式は,美術と音楽の二つの大学が統合して「京都市立芸術大学」となって以来,合同で行ってまいりましたが,新型コロナウイルス感染症対策のため,本日は初めて2部制といたしました。例年ならばご列席いただくご来賓の皆様,ご家族や関係者の皆様には,ご来場いただけませんでしたが,動画のライブ配信でご視聴いただいております。みなさまには今日まで学生たちを支えてくださり,また京都芸大の教育にご理解とご支援を賜りましたことに,大学を代表して厚く御礼申し上げます。
さて,本日卒業する美術学部の4回生の皆さんが入学された年,私は美術学部の教員として,全専攻の1回生全員が履修する総合基礎実技を率いる委員長をしておりました。美術学部でない皆様にはお許しいただかねばなりませんが,実を言うと今年の美術学部4回生は私にとってはことのほか印象深い学年です。先日の作品展では,専攻を超えて顔や名前を見覚えていて,あの時の1回生がこの厳しい年に卒業制作に挑んだのかと,感慨深いものがございました。
また,私は学長就任以来,この2年間,多くの音楽学部や研究科の皆さんの演奏を聴かせていただきました。大学主催の定期演奏会や,その他様々な発表会,さらに教室でのレッスン,また昨年は遠隔・オンラインでの実技のレッスンにも立ち会わせていただきました。同じ芸術でも,美術作品を制作するのと違い,人前に立つために繰り返される練習,本番前の緊張感,まるでアスリートのようだとそばで感じておりました。何度も聞かせていただいているうちに名前やお顔を覚えた皆さんが,卒業・修了されるのは寂しい思いもあります。今年度は,このコロナ禍で厳しい状況の中,最終学年で取り組もうとしていた演奏会やレッスンができずに,みなさんはさぞ何度も悔しい思いをされたことと思います。
今日は,私が美術学部の教員として,4年前に担当した総合基礎実技で掲げたテーマについてみなさんにお話したいと思います。それは,「自律と遊び:playful autonomy」です。
自分を律すること=「自律」と「遊び」は,これから始まる京都芸大での学び,さらにその後も続く創造活動,芸術や研究にもつながる二つの重要なキーワードであると考えました。テーマ設定にお力をお借りした共通教育・哲学の永守先生をはじめ総合基礎実技運営委員の先生方にご協力をいただきまして,テーマに沿った課題について何度も何度もミーティングをいたしました。学生の皆さんも,それに答えて課題ごとに奮闘してくれたことを覚えております。
最初のテーマ説明の日には,こんな話をしました。
芸術をする,また人間として成長するには自律することが必要です。
「自律」とは自分を律すること。自らの思いを,自分で決めた規律に従ってコントロールしながら達成していくことです。そして自律するには,さまざまな困難や思いがけない出来事にも,自分で対応していかなければなりません。そのためには余裕,すなわち遊びが必要です。つまりそれは,目標や目的をいかに早く効率よく達成するかではなくて,回り道や寄り道を無駄と思わず,葛藤や失敗も楽しむくらいの余裕で,取り組み続けてほしいというメッセージをこめたテーマです。「自律と遊び」,この二つの言葉はお互いを支え合う関係にあります。自律するには遊びや余裕が必要です。また心から遊びを楽しむためにはしっかりと自律していることが必要です。
本日ここに卒業そして修了を迎えるみなさんは,今年度,この思いがけない,特別な一年間を通して,いっそうしっかりと自律することを学び,そんな中で心の余裕や遊びの必要性を理解し,身につけられて,ひとまわりもふたまわりも大きく強く成長されたことと思います。
新型コロナウイルス感染症の拡大は一年以上経った今でも,世界中に大きな不安をもたらしています。そして社会は急速に変革を余儀なくされています。先が見えない状況の中,新しい一歩を踏み出さねばならないみなさんには,京都芸大で培ってきた自由で豊かな想像力や表現力,柔軟な思考力,ねばり強い探求力,そして芸術を通じたコミュニケーションの力を磨き続けて欲しいと思っています。制作や演奏活動,作曲,研究,様々な職場あるいは立場で,創造的に発信してほしいと思っています。もちろん,夢を実現するためには,その道のりは長く,まっすぐではありません。遠回りや休止,回り道をせざるを得なくなることは,人生の中でむしろたくさんあるでしょう。
それでもその途中を楽しむくらいの気持ちで,芸術の道を模索し続けてほしいと思います。それが,社会に対峙するアート,アーティストとしての振る舞いです。みなさんの多彩な取り組みが,きっとこの閉塞感を打ち破り,人々が寄って立つ,社会の大切な心の部分を支えることができるはずです。これからのポスト・コロナと呼ばれる時代,新しい社会をつくっていくには,本日ここに新たなスタートを切るみなさんの力が必要不可欠です。
卒業生,修了生のみなさん,京都市立芸術大学は,みなさんが芸術とともに歩んで行かれる人生を,これからも応援し続けます。
活躍するみなさんと,再びお目にかかれることを期待しつつ,私からのはなむけの言葉といたします。
本日は,誠におめでとうございます。
令和3年3月23日
京都市立芸術大学 学長
赤松 玉女