令和4年3月23日,令和3年度美術学部・音楽学部卒業式並びに大学院美術研究科・音楽研究科学位記授与式を,新型コロナウイルス感染症対策のため,卒業生,修了生と教職員のみで,2部に分けて執り行いました。また,御家族の皆様,関係者の皆様には,動画のライブ配信で御視聴いただきました。
美術学部126名,音楽学部63名,美術研究科修士課程66名,音楽研究科修士課程23名,美術研究科博士課程3名が,教職員に温かく見守られ,卒業式並びに学位記授与式に参加しました。
今年も趣向を凝らした自作の仮装で出席する学生が多数おり,答辞の際には講堂内に笑いが溢れるなど,本学らしい和やかでアットホームな卒業式となりました。
卒業生・修了生の皆さん,本当におめでとうございます。
教職員一同,皆さんのご活躍を心から期待しております。
令和3年度卒業式式辞
(※2部制での式辞を一部編集し,掲載しています。)
本日,ここに集われた美術学部126名,音楽学部63名,大学院・美術研究科修士課程66名,博士課程3名,そして音楽研究科修士課程23名,総勢281名の皆さんが,卒業ならびに修了されますこと,誠におめでとうございます。京都市立芸術大学を代表いたしまして,心からお祝い申し上げます。また,ご来賓の皆様には,お忙しい中ご臨席いただきましたことに深く感謝申し上げます。
新型コロナウィルス感染症対策のため,動画ライブ配信でご視聴いただいておりますご家族や関係者の皆様には,今日まで学生たちを支えて下さり,また京都芸大の教育にご理解とご支援を賜りましたことに,大学を代表して厚く御礼申し上げます。
さて,コロナ禍により先を見通しづらい状況がつづき,芸術の世界もまた大きな影響を受けました。芸術家,音楽家はじめ,さまざまな文化芸術活動の主催者,会場,関係者など,芸術を生み出し支えてきたそのつながり全体が,まさに世界規模の危機に立たされました。芸術そのものが不要不急とされた時期もあり,皆さんは大きな不安を感じ,将来への迷いが生じることがあったかもしれません。
京都芸大でも遠隔のみで続ける授業もあり,教育プログラムとしてのコンサートや展覧会,さらには五芸祭や芸祭といった学生主導のイベントも,行動規制が敷かれる中で中止や延期,または無観客やオンライン開催とすることが数多くありました。やりたいことが実現できない状況に,誰よりも学生の皆さんが悔しい思いをされたとは思いますが,それでも倦むことなく,思い切った工夫や新しい試み,日々の努力を積み重ねてこられました。芸術が持つ批評的な精神,従来の価値観や当たり前を疑ってみることで新しい表現の方法や可能性を模索してこられた皆さんは,厳しい状況の中でも芸術の持つ柔軟さ,強さを発揮して,本日の卒業式・学位記授与式を迎えられました。その真摯な努力に深く敬意を表します。
そして,コロナ禍が続くこの2年間,クラシック音楽に関わる人々の姿がさまざまなメディアに取り上げられていました。ステイホームで一人自宅にこもって練習する姿,楽団の存続維持にスタッフが奔走する姿,そして病院の屋上やバルコニーから,ロックダウンで誰もいない大聖堂から,励ましや感謝をこめて,たった一人で演奏する姿が世界中にありました。また,1年延期した東京オリンピックの開会式で,選手入場のプロローグに,人種や,性別,世代の違うオーケストラ・メンバーがチューニングを行う姿が映し出されたことも印象に残っています。
こうした姿がしばしばとりあげられたのは,コロナ禍で当たり前の日常が失われた人々の傷みを象徴していると同時に,世界共通の音楽である交響曲やオーケストラが,さまざまな音色を束ねる多様性と,幾多の困難を乗り越えて続いてきた不滅のシンボルとして輝くからでしょう。パンデミックの当初,不要不急とまで言われた芸術の真の価値や意義が再認識された証ともいえるでしょう。
今また,世界は苦難に直面しています。まさか,ありえないと思っていたロシアによるウクライナへの侵攻が始まり,瞬く間に人々が壮絶な戦いに巻き込まれ,日常生活が踏みにじられる様子を世界中がリアルタイムで目撃し,心を痛めています。芸術が,戦争などによって迫害や制約を受け,翻弄された過去や歴史を思うと,彼の地の芸術家たちの現在を思わずにはいられません。
この惨劇が続く中,首都キエフのオーケストラの団員たちが,「戦下の今だからこそ」と広場に出て演奏している姿を報道などでご覧になった方もおられるでしょう。自分は武器ではなくバイオリンしか持っていない,しかしながら音楽が人々や自分たちの状況を乗り越える支えになると信じていると語って演奏する姿でした。ここでも芸術は命を励ます光でした。
コロナ禍とウクライナ情勢により,平和や安全,自由が,実は約束されたものではないことを改めて実感いたしました。そしてそんな今だからこそ,皆さんには常に自分の意思で人生を考え決断し,それぞれの夢の実現に向かって歩いてほしいと切に願います。どんな状況にあっても,芸術の自由な心を持ち続けてほしいと思います。そのことが必ず次の時代を照らす光になり,支える力になると確信しています。
最後になりましたが,京都市立芸術大学は来年秋に,新キャンパスに移転します。皆さんは,慣れ親しんだ教室や思い出深い校舎から移転してしまうことに寂しい気持ちがあると思いますが,ぜひ新校舎での展覧会やコンサート,図書館などを機会があるたびに訪れていただき,「テラスのように開かれた大学」としての京都芸大を応援していたただきたいと願っています。
それぞれの道で活躍する皆さんと,再びお目にかかれることを期待しつつ,私からのはなむけの言葉といたします。本日は,誠におめでとうございます。
令和4年3月23日
京都市立芸術大学 学長
赤松 玉女